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【第11回】藤井 涼 さん (朝日インタラクティブ株式会社CNET Japan編集部 編集長)

2019.08.20

テクノロジーで社会課題を解決したいビジネスパーソンのためのメディアでありたい

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世界的なネットワークを生かし、ビジネスにおけるIT活用の最新情報やその本質に関する情報を発信し続けているオンラインメディア「CNET Japan(シーネットジャパン)https://japan.cnet.com/ の編集長に就任された藤井 涼さんに、媒体の特徴や記者と広報担当者との関係についてお話を伺いました。

ITビジネス全領域をカバーできる自由度がCNETの魅力



藤井さんのこれまでの活動について教えてください。

藤井 大学4年生からインターンシップでお世話になっていたデジタルメディアの企業に2008年に新卒で入社しました。2年ほどプレスリリースをベースとした記事を書いていましたが、次第に自分でも取材したいという気持ちが高まり、2010年夏にCNET Japan(以下、CNET)に移りました。9年在籍して、2017年に副編集長、2019年5月に編集長に就任しています。今年の5月というのは、ちょうど経営陣をはじめ会社全体で組織を再構築するタイミングにあり、私も13年務めた前編集長からこの立場を引き継いだばかりです。日々のマネジメントのほかメディアの代表者として表に出る機会もあり、現場の一記者では経験できない多様な活動を求められる立場にやりがいを感じています。

CNETはどのようなメディア活動を展開されているのでしょうか。

藤井 CNETは、世界のITビジネスの情報を取り上げ、その本質を解説する媒体として幅広い領域の記事を掲載しています。また当社の場合、いただいた情報がよりエンタープライズ向けであればZDNet Japan、非IT部門の生産性向上やワークスタイル改革などの情報はTechRepublic Japanと、情報の内容によって自社の各媒体でカバーできるのも強みだと感じています。

米国のCNETの記事も翻訳して公開しています。米国では比較的ガジェットの話題を取り上げることが多いのですが、各国で注力する取材領域はローカライズできるため、私たちはクロステックの領域に注目しています。これまでに、Real Estate Tech(不動産テック)、Edtech(エドテック)、HealthTech(ヘルステック)、FinTech(フィンテック)、HRTech(エイチアールテック)、FoodTech(フードテック)などを積極的に取り上げてきました。

最低限の担当はあるものの、面白いと感じたものはどんどん載せていける環境です。最近だと、ラジオ局のJ-WAVEのイノベーションに関する記事や、歌舞伎の興行でチャレンジングな取り組みを続けている松竹の社長へのインタビュー記事を掲載しました。このように幅広いテーマを扱えるのも、全領域をカバーする媒体ならではの良さだと思いますね。

これらの幅広い情報を扱うのに、どのような体制で臨まれているのでしょうか。

藤井 国内の記事は私も含めて5人で担当しています。そのほかに米国のCNETの記事を翻訳するチームが2人いるので、全部で7人の体制です。ただ先ほどお伝えした通り、CNETの特徴は他のメディアのように「モバイル」「クラウド」といったセグメントが分けられておらず、全ての領域をカバーしているところです。そのため記者それぞれが抱えている幅が大きいので、正直なところ人手はいくらでも欲しいです(笑)。

情報をとにかく正確に、より深く届ける。判断するのは読者。



全領域の情報を発信するメディアとして大事にしている編集方針は何でしょうか。

藤井 まずは「社会課題の解決」という視点です。クロステックの取材を進めることで確信に変わったのですが、この領域のテクノロジーは圧倒的に課題ドリブンです。最先端のガジェットの話題より地味かもしれませんが、こうしたテクノロジーを取材して紹介することで明日の生活を変えることに繋がるとしたら、とても意義のあるメディア活動ではないかと感じています。

次に「ソーシャルファースト」です。ソーシャルメディアでどのように読まれるか、どうやってその情報を流通させるかを意識しようというスタンスで、会見の速報性を向上させたり、SNSでも注目されるようなテーマの取材を増やしています。昔ながらのやり方で時間をかけて良い記事を書いても、読者に届かなければ存在しないのと同じですから。

それから、前編集長の頃から変わらないのですが、CNETは話を盛りません。釣りタイトルをつけないことにこだわっています。とにかくその情報を正確に、より深く届ける。自分たちの意見をできるだけ入れず読者に判断を委ねたいというスタンスで、その分、テーマ性に工夫をしています。先ほど例に挙げた歌舞伎(松竹)のインタビュー記事でも、その新しい試みに対する自身の思いはあえて書いていません。読者がその記事を読んで、歌舞伎座に足を運ぶなり、批判するなり、何かしら興味を持って考えるきっかけになればそれで良いと思っています。

そういえば、メディアの記事に結論を求め、自分はそれをそのまま鵜呑みにするという、読み手側のリテラシーの問題もありますね。そのためか、メディアによっては考えずともすっと頭に入ってくるものを量産する傾向もあるように思います。

藤井 何も考えずに消費するコンテンツが読みたい時もあると思うので、それはそれでいいと思います。でも私たちはテクノロジーをどうにかしてビジネスに活用し、社会に貢献したいという人のためのメディアでありたいです。ページビュー(PV)も考えてないとは言いませんが、クライアントや取材先も良い読者がついているかという点に媒体としての価値を求めるようになっています。最近ではCNETだけにインタビューをしてほしいと選んでくださる方もいて、ありがたいですね。企業が出してほしいこととその記者が求めることがマッチして、きちんとした情報が外に出ていく。そうした良い関係がたくさんあるのが良いメディアだと思いますし、その傾向は強くなっていると感じます。

記者と広報担当者とは「対等な立場」で信頼関係を築くべき



企業の広報担当者からの連絡手段は何が良いでしょうか?

藤井 私の場合は、電話やメールよりもSNSやFacebook(フェイスブック)のメッセンジャーの方が良いです。メッセンジャーはフレンドじゃないので直接送るのは気まずい、という方はTwitterのダイレクトメッセージでも構いません。電話が困る理由は、取材等で不在がちなので電話に出られないとそのまま機会損失になるからです。やはり情報に気づけないことが最大のリスクです。メールだと気づくまでに時間がかかることがあり、逆に電話はリアルタイムすぎて手が空いていない時があるので、私にとってはリアルタイム性も高く、自分の好きなタイミングで返事ができるメッセンジャーの距離感がちょうどいいですね。極端な話、夜遅くだろうと情報を送ってもらいさえすれば気づくことはできるので、適切なタイミングで対応できますよね。

広報担当者は記者にどのような情報を提供して欲しいか聞いても良いのでしょうか?

藤井 そうですね。私は、両者の理想的な関係について、双方が対等な立場で信頼関係を持って情報を届けられる状態だと考えています。その意味では、その記者や媒体がどんな情報を求めているのか日常的に発信されている内容に目を通していればわかるはずですし、リアルな場で会話するのでも良いので、まず記者と広報はコミュニケーションを取っていくべきです。

たとえば私は、電話をしていただいて掲載がむずかしいと思ったときは「それは難しい。こういう理由で難しい。逆にうちで載せるとすると、こういう切り口なら載せられる」と説明します。というのも、はっきり言わず「検討します」で回答を先送りされたら、きっと言われた方はずっとモヤモヤすると思うからです。また手探りで見当違いの情報を送ってしまって悪循環になるかもしれない。だから入り口のタイミングできちんと言った方が互いのために良いと考えています。また、広報担当の方が掲載されなかった理由を自分から記者に尋ねたいという場合には、「どうしてダメでしたか?」と聞くよりも、「こういう理由でダメだったのですか?」と、予め仮説を持って訊かれるほうがいいと思います。そうしていただくと、メディア側としては「そうです」「違います」など説明がしやすくなるのでありがたいです。

ちなみにPR会社の方に同じような説明をしたところ、ある方は次の機会に、求めるキーワードに関連するネタを10本も用意してくださったことがありました。多数の商材や情報に通じているのはPR会社の強みだと思いますが、その際は10本中7本くらいはすぐに記事にならなくても面白い内容でした。記者も面倒がらずに、どんな情報が欲しいかきちんと説明した方が結果的にいい仕事につながるはずです。ですから、どっちがという話ではなく、双方が歩み寄り意識的にコミュニケーションをとることが大事だと思います。

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テクノロジーはもはやIT企業だけのものではない



取材を通じて感じるテクノロジーのトレンドや変化についてお聞かせください。

藤井 この数年、もともとIT企業ではなかったいわゆるレガシーな企業や領域でも、クロステック化の動きが顕著です。建設テックなどでは資金調達の話題もあり勢いを感じます。もちろん私たちがクロステックにフォーカスし始めたために目につきやすいというのはありますが、通信キャリアも農業事業に参入しているくらいですから、大きな潮流と言って良いのではないでしょうか。そこで重要になるテーマはAI、IoT、ビッグデータ、そして今後は5Gなどがトレンドとなってくると考えています。

今後CNETではどのような種類・テーマの記事を増やしていきたいとお考えですか?

藤井 これまではストレートニュースのメディアとして、プレスリリースや記者会見等のストック型ではない記事が多かったのですが、今後はCNETならではのインタビューや独自の切り口の個別取材記事を量産しようと考えています。私が編集長になってからのこの2ヶ月は、戦略的に業界の著名人、いわゆる一流の方々を取材させていただきインタビュー記事を数多く公開しています。そのほか、連載や特集記事にももう少し力を入れて、深みのある読み物コンテンツを増やしていきたいですね。あとは、引き続きクロステック領域の記事を増やしていきたいと考えています。

そうした記事を増やすためにどのような情報収集をされていますか?

藤井 TwitterトレンドとNewsPicks(ニュースピックス)、ヤフトピなどはよく見ています。フェイスブックも有効ですね。企業のトップや広報担当の方はリリースを公開後すぐフェイスブックでシェアするので、ウェブサイトに掲載するよりも先に気づくこともあります。それから、たくさんシェアされている記事やリンクが上に表示されるフェイスブックの仕組みを活用している企業もありますよね。社長のインタビュー記事やブログを複数の社員が自発的にシェアすることで多くの人に気づかれる。うまいやり方だなと思います。もちろん電話やメールなどで直接いただいた情報を記事にすることも多いのですが、FAXはもう使っていませんね。


重要なのはその情報が誰の課題を解決するのかという視点



あらためて、企業の広報担当者にアドバイスなどがあればぜひお話ください。

藤井 新サービスや資金調達など、新しいニュースがないと記事につながらないのではないかと考えられている広報担当の方もいらっしゃるかもしれないのですが、そんなことはありません。たとえば、「普遍的な課題の解決」につながる情報などは取材しやすいテーマの1つです。

以前すごく読まれた記事に『なぜ、「デジタル」を使いこなせない営業が多いのか--マルケト福田社長に聞く』と題したインタビュー記事がありました。ただの製品紹介ではなく「なぜツールを使いこなせないのか。じゃあどうしたら使えるようになるのか、使ってくれるのか」という顧客課題に触れ、解決に導いてきた企業のプロにインタビューする切り口です。雑誌のような記事ですが、「デジタルを使いこなせない人が多い」という課題はマーケター以外の人でも興味を持つと思います。すぐにリリースが出せないときでも、こうした企画なら記事につながることがあります。やはり記事が載ることをKPIにするのではなく、載せたあと、それは誰の課題を解決できる情報なのかという視点で説明していただけるとありがたいですし、そういうテーマの記事はぜひ書きたいと思います。

あとは繰り返しになりますが、結局は人間同士なので、互いに気持ち良い関係を作る努力をすることに尽きると思います。これは広報担当者だけでなく、記者も同じです。SNSやリアルでの関係構築を怠らないことが大切です。馴れ合いにならず、読者に有益な情報を発信するためにきちんと意見を言い合える、正しい良い関係を作っていきたいですね。

藤井編集長、ありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :大西花絵
取材サポート:村上福之