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【第14回】本多 和幸 さん(株式会社BCN 週刊BCN編集長)

2019.12.02

業界紙としての価値を最大化したい

広報PR担当者であれば、必ず知っておきたい個々の媒体特性。しかし、意外と理解しているようで知らないことも多いのも事実です。
各メディアの方がいま取り組んでいること、広報担当者に感じていること、これからの在り方など、ぜひお伝えできればと思います。

今回お話を聞いたのは、2018年より編集長としてご活躍中の「週刊BCN」編集長 本多さんです。
メディアの入れ替わりも激しい昨今において、ITビジネス専門紙「週刊BCN」は今年で創刊から38年を迎えました。

「ITビジネス専門紙」の編集長が考える読者に共感されるコンテンツづくり、そして、日々変化する法人向けITビジネスにおける時代の流れをどう見ていらっしゃるのでしょうか。

BCN_Honda_san01_1.jpg本多 和幸(ほんだ かずゆき) 編集長 プロフィール

1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、2013年、BCNに入社。業務アプリケーション領域を中心に担当。2018年1月、『週刊BCN』編集長に就任。



メディアのコンセプトも時代の変化に合わせてアップデート、成長するエコシステムに注目。



ー BCN編集長に就任されて1年くらいでしょうか。

本多和幸さん(以下、敬称略):編集長が変わってから2年近く経ちますね。あっという間でした。

私自身は、大学卒業後に水道事業の動向を伝える専門新聞社で、9年間記者をやっていました。

BCNのメディアとしてのコンテンツづくりに携わる人材は比較的中途採用者が多く、彼らは基本的に紙メディアでキャリアをスタートしています。記者職以外の編集デスクやデザインチームも、長く紙をやってきた人たちなので、とても頼もしい存在です。

現在、私は紙媒体である週刊BCNの編集長を務めていますが、近年、弊社全体ではWeb媒体にも当然力を入れています。新卒で入った記者が紙とWebの制作両方に関わることができるのは、ITビジネス専門メディアとしてはもはや希少種ですね(笑)。

ー 御社の場合、Webは後発だとおっしゃっていますが、編集部としての方針はここ数年で変わってきていますか?

本多:基本的な読者ターゲットは変わっていません。ただ、昔からのファンでいてくれる読者の皆さんに支えていただいている一方で、40年近く続けていると、メディアとしての資産が老朽化してしまうという側面も少なからずあります。若い世代の読者をいかに増やしていくかは大きな課題ですが、そのためには読者との接点やエンゲージメントのあり方をWebも含めてトータルで再設計・再構築しなければならないわけで、その変革の途上にあるという感じですね。

メディアのコンセプトも時代の変化に合わせてアップデートしていく必要があると実感しています。BCNといえば法人向けITのディストリビューターやリセラーのためのメディア企業というイメージをお持ちの方も多いでしょうが、まさに週刊BCNは創刊当初から「IT流通」にフォーカスするメディアとして情報を提供してきました。ここでの「流通」というのは、モノ売りのための販路や商流というニュアンスですね。しかしもはやクラウドサービスがあたりまえになり、ハードウェアですらサブスクリプション型のビジネスモデルが出てきているわけです。

「流通」って、どうしても生産者→販売者→顧客とモノが一方通行で流れていくビジネスを想起させてしまうところがあると思っていて、いまの市場を考察するための軸足の置き場としては範囲が狭すぎるというか。ですので、現在の週刊BCN編集部は、「ITビジネスエコシステム」を探求するメディアであることを自らの存在意義として紙面制作に取り組んでいます。「成長するエコシステムとは何か?」という視点で深く市場を探っていくことで、IT業界に貢献したいです。

ー 媒体としての価値をどう提供して行くかということですね。編集長としてのこだわりや積極的に取り組みたいとお考えのことはありますか?

本多:編集長にはビジネスとして成立させる媒体を作る責任がありますが、広告モデルだけでは先がありません。これはWebも同様です。現在、イベントの開催にも力を入れていますが、これは企画・営業側とも連携してもっと強いコンテンツにしていかないといけないと思っています。ただ、やはり一番の課題は先ほども申し上げた、Webも含めた読者とのエンゲージメントの再設計・再構築というところです。いろいろと模索はしていますね。

ー Webメディアが台頭するなか、紙媒体を長く続けているのは大変意義のあることではないでしょうか。

本多:紙媒体の価値はまだ高める余地があるのではと思います。特に、週刊媒体は。

「WIRED」日本版の編集長をされていた若林恵さんがどこかで発言されていたのを目にしたのですが、少なくとも仕事をしている人にとっては1週間というのは意味のあるサイクルであり、それに合わせてパッケージングされた情報は有用であるという趣旨のお話をされていたんです。私も同感です。

週刊BCNも、「週刊」の価値を最大化することを意識して、去年8月に紙面をリニューアルしました。読み物中心の雑誌的な作りからニュースをメインコンテンツにした作りに変え、BCN視点で「前週起こった重要トピック」について読み応えのある解説を交えて伝えられるようにしています。

ー BCN編集部の中で担当記者は業界ごとに分かれている感じでしょうか。

本多:編集体制としては、編集長+5名でやっています。社長交代などの速報ニュースを載せるときはBCNの記者がその都度書いています。「ハードウェア」「業務アプリケーション/ミドル系」「ネットワーク」「セキュリティ」「システム開発」のような大まかな担当割はありますが、実際の取材はそれぞれの記者が自分の担当分野以外も興味関心に従って自由に取材できる体制にはなっています。

市場のボーダーレス化が進んできている中で、全ての記者にゼネラルな見識を養ってほしいと思っています。ある程度網羅的に把握しておかないと自分の言葉で抽象化して市場を語れないんです。広報PRの皆さんにとっては情報提供しにくいかもしれないですが......(苦笑)

ー 取材対象の企業規模などはいかがでしょう?

本多:それもあまりこだわっていませんね。スタートアップの連載もこの秋から再び始めましたし、基本的に法人向けにビジネスをしているIT企業であれば、追いかけていきたいと思っています。

BCN_Honda_san02.jpg左:加藤 恭子(ビーコミ) 右:本多 和幸 氏


広報を重視している企業とそうでない企業、広報PRの二極化を感じる



ー 広報PRの方に求める情報提供のスタイルなどはありますか?

本多:連絡手段に関してはメール、SNS、電話など多様化していますが、こちら側からこうしてほしいといった要望はありません。

私たちが能動的に情報収集できる範囲は限られているので、日頃から若手の記者には、企業広報やPRの方を大事にすべきだというのは伝えています。たとえ締め切り前などの余裕がないときでも、せっかくのお電話に素っ気ない対応ではその後情報を提供していただけなくなってしまうと。

情報の内容については、Webメディアのストレートニュースとは異なる週刊ならではの視点で取り上げたいと考えているので、単純な新製品発表やバージョンアップのニュースだと記事掲載は難しいです。ただ、その発表がそのベンダーさんのビジネスそのものにどれだけ影響があるのか、また取り上げるにたるストーリーの存在がわかるように提示していただけると個別取材などを検討しやすくなります。個別取材すると記事化される確率は高くなりますので、独自の情報をちりばめ、取材の呼び水になるような情報提供をしていただけると大変ありがたいです。

余談ですが、BCNメルマガには「今日のひとこと」という記者のコラムがあります。各記者の興味や個性が如実に出ているので、参考にされると面白いかもしれません。

ー 今後増やしていきたい記事の種類やテーマはどの辺りでしょうか。

本多:個別のジャンルやテーマではなく「デジタルビジネス的な」要素を重視していきたいと考えています。多様化しているエコシステムの事例として、オープンイノベーション的なベンダー、パートナー、ユーザーによる「(ITビジネスの)共創事例」があれば、ぜひ掘り下げて取材したいです。

ー 情報収集などはどんなスタイルで行っていますか?

本多:取材対象との直接のコミュニケーションはもちろん、企業サイトを見ることもあります。エンジニアのコミュニティや業界団体の記事やブログを読んだりして、新しい技術や専門知識をお持ちの方のコメントなども参考にしています。SNSも使います。さまざまな領域のトップランナーの方々の情報発信は参考になりますね。

ー さいごに、企業の広報PR担当者へのアドバイスや伝えたいことなどありますか?

本多:広報PRを重視している企業とそうでない企業があり、プロフェッショナルとそうでない方の二極化が進んでいる気がします。広報PRの方にも立場があるように私たちメディア側にも書きたいことや発信したい内容があること、読者の期待やメディアの特色の上に成り立っているという前提を理解していただけたらありがたいですね。そうなると、お互いに幸せになれる確率が上がると思います(笑)。(了)

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)/高橋ちさ
構成:高橋ちさ/大西花絵