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【第10回】織茂 洋介 さん (アイティメディア株式会社 プロフェッショナル・メディア事業本部 編集企画局 IT編集統括部 ITmedia マーケティング編集長)- 後編 -

2019.07.03

デジタルマーケティングは本来、嘘がつけない世界。だから好きなんです。

ITmedia_織茂氏4.jpg

今回は、ITmedia マーケティング編集長の織茂洋介さんインタビューの後編をお伝えします。前回は、織茂さんが今日のポジションに至るまでのお話から広報担当者に対するメッセージをお話しいただきましたが、後編はその続きからスタートします。

その会社の広告が欲しいから記事を出すということは、全然考えない。



加藤 企業の広報さんに求める情報提供スタイルについては?

織茂 「とりあえずご挨拶」みたいなコミュニケーションはなくてもいいのかなと思います。そのためだけにわざわざお越しいただくのも申し訳ないですから。また、製品リリースとかイベントのご案内とか、何かニュースになりそうなトピックスをお持ちいただくこともよくあって、それはそれで勉強させていただいているんですが、せっかく会いに来ていただけるなら何か次のアクションにつながるご提案があるといいですよね。聞きっぱなしだとすぐ忘れてしまうということもあるし(笑)

加藤 提案というと、寄稿とか?

織茂 実際、広報の方との会話の中から「当社の誰それがこんなことを語れます」という形で企画が決まることもあります。マーケティングオートメーションやBI、CRM、アドテクなど、専門的な知見はベンダーの方が一番お持ちだったりしますからね。もちろん、編集記事として載せるわけですから、「自社の宣伝」的な要素は、相談の上でカットさせていただくこともありますが。

加藤 その方がいいですよね。読者も「なんだ宣伝か」というところを感じ取りやすくなっていますよね。

織茂 せっかく良いことを書いてもらっているのにステマを疑われたら媒体として嫌じゃないですか。企業の側からしても、痛くもない腹を探られるのは不本意だと思うのです。中には、広告を打つ予算がないから代わりにメディアで寄稿をしたいという思惑を持っている方もいると思うのですが、ITmedia マーケティングのロゴのついたページで編集記事として載せる以上は、読者目線で価値のあるものにしたい。

加藤 寄稿した企業からの広告を期待するということは。

織茂 全く考えていません。というか、そこはあえて考えないようにしています。広告出稿をご検討いただければそれはもちろんうれしいですが、話をまとめるのは営業部の仕事。私が勝手にしゃしゃり出ていいとは思っていません。企業の側からしても、自社の懐具合にしか興味のない編集者と話したくないでしょ。

プレスリリースは送っておいた方がいい。ただし...



加藤 情報収集の方法はどうしていますか?ネタはどこで見つけてこられるのでしょうか。

織茂 企業からの新製品情報などについていえば、ITmediaのプレスリリース専用メーリングリストにご案内いただく分だけでも、かなりの量になります。1か月放っておくと数十ギガバイトにはなるでしょうか。全部に目を通すのはとても無理なので、自分に関係のあるテーマをそこから検索して拾っています。他の編集者もそうしていると思うので、広報の方はとりあえずそこにプレスリリースを送っておくといいんじゃないでしょうか。ただし、メールボックスの容量を食いつぶされるので重たい添付ファイルは避けてほしいですが(笑)。

加藤 ベンチマークしている他媒体とかあるんですか。

織茂 マーケティング系のWeb媒体は、有料のものも含めてだいたい見ています。しっかり読んで勉強させていただいていますよ(笑)。
それから、クローズドな情報を得る上では、業界有識者との個人的なリレーションも重要ですね。加藤さん含めメッセンジャーで話しかけてこられる方もいますけど。そういったつながりから情報をいただくこともあります。

加藤 申し訳ありません(笑)。

織茂 それと、業界関係のSNSアカウントは割とフォローしています。誰々がどこに移籍したとか新しい役職に就任したとか、Facebookが一次情報みたいなところがあるので。
書籍編集者時代はソーシャルメディアの黎明期で、FacebookやTwitterの魅力を広めるための本をずいぶん作っていましたが、今ではそこが情報源になっているというのは、感慨深いものがありますね。

自分と媒体の存在意義をどう考える?



加藤 織茂さんとITmedia マーケティングの強みって何でしょう。

織茂 直球来た(笑)。そうですね、何かな。まず、専門性で言ったら、恐らく読者の皆さんにかないません。自分で予算を持って施策を回しているわけでもなければ、プロダクトを作っているでもない。ただ取材して記事を書いているだけじゃないかと言われれば、だいたいその通りですから。
ではどこが強みかといえば、自分自身のこととしてはまず、前職の頃も含めこの領域を結構長く、少なくとも「デジタルマーケティング」という概念が浸透する以前から眺めているというのはありますかね。企業の出自や人事消息とか、エピソードの背景のストーリーを読み解くのに役に立っているような気もします。あくまでも何となくですが(笑)
もう一つは、あちらこちらに顔を出していること。ITmediaという20年やっている媒体の看板のおかげで、さまざまな企業にお邪魔させていただいています。会社でじっとしているのが嫌いだという性分もあって、取材に行くのは大好きなんです。ベンダーにも代理店にも事業会社にも行く。あちこちに出掛けてさまざまな人の話を聞く中で「A社とB社は言うことが似てきたな」とか「売る側が強みだと思っていることを買う側は全く評価していなくないか?」とか、さまざまな気付きがある。

加藤 同じテーマに関心を持つ人が集まるという部分では、オウンドメディアで大きなものもありますが。

織茂 今言ったように、我々が独立したメディア企業であるということには、一定の価値があると思っています。オウンドメディアは競合企業の取材にはなかなか行けませんよね。われわれはその点、ステークホルダーに対して中立公平で客観的な立場で記事が書ける。

「media」とはもともと「medium」の複数系で「中間にあるもの」という意味だと聞いています。売り手と買い手、専門家と非専門家といった、距離のあるものの間を我々が行ったり来たりする中で、新しい発見があったり、そこから生まれる価値があると信じています。

我々が出す記事は常に完全無欠ではないかもしれません。でも、それはそれで「こう見えるのか」「ここが伝わっていないのか」という、ある種の写し鏡にはなるわけで、もしご意見があればぜひ我々に伝えていただきたいし、対話させていただいて、より良い記事を出せるようなメディアにアップデートしたい。

加藤 必ずしも専門分野に詳しければいいという話ではないと。

織茂 念のために言うと、それをエクスキューズにして不勉強のままテキトーなことを書いていいと思っているわけではありませんよ。ただ、非専門家の視点は失ってはいけないものだとも思っています。例えば行動パターンに合わせて広告を出し分けるアドテクの話は、獲得コストを抑えてマーケティングの効率性を高めるという点で、広告主にとって、とても魅力的なものといえるでしょう。でも、エンドユーザーの目線からすると、自分の行動が相手に筒抜けになっているようで気持ち悪く感じるかもしれませんよね。そのように素朴に疑問に感じたことがあれば、我々はフラットな立場で忖度なしに聞きます。

ITmedia_織茂氏3.jpg左:織茂 洋介 氏 右:今回カメラマンを勤めてくださった 村上 福之氏(株式会社クレイジーワークス)

カスタマーサクセスに注目



加藤 ITmedia マーケティングでは現在どんなテーマを扱っているのでしょうか。そしてどのあたりがデジタルマーケティングのトレンドなのでしょうか。

織茂 読者が関心あるところでいえば、1つはB2Bのデマンドジェンの領域ですね。ITmediaの中のマーケティング媒体なので、読者の中には元々IT企業の人が多いですし。ただ、マーケティングという言葉がカバーする範囲はもちろん、もっとずっと広いですから、実際には広告、ブランド、CRMなども、けっこうガッツリ扱っています。

加藤 守備範囲が広がっている。

織茂 マーケティングの課題も広がってきたということが背景にあります。製品主導から顧客主導、価値主導のマーケティングが求められるようになる中で、マーケターが自分の閉じた役割に集中していい時代ではなくなりつつあります。
認知から興味・関心、検討、購買という全体の流れを意識して組織が一丸とならなければ、顧客の成功に貢献できない。顧客が成功できなければ自社も当然成功できない。マーケティングに全体最適が求められる中で、マーケティングについて扱う媒体の関心も必然的に広がっていく――そんな流れがあるのかなと。

加藤 なるほど。

織茂 顧客の成功、すなわち「カスタマーサクセス」は最近どこに取材に行っても聞くキーワードですね。

加藤 確かに!よく聞きますね。

織茂 成約することは売る側にはゴールですが顧客にとってはスタート。売りっ放しで置き去りとなってしまっては、今のサブスクリプションの時代では一回で切られてしまう。成功させ続けないと二度目の購買(継続)はないよと、だんだんそうなってきている。
つまりマーケターはマーケティングの先のCRM、カスタマーサクセスという所にまで興味を持つ必要が出てきて、それぞれの部署が連携しなければならなくなってきている。気が付くとそういった記事の本数も増えてきていますよね。

加藤 昔でいうとカスタマーリテンションとか、そういう話ですよね。

織茂 佐藤尚之さんの「ファンベース」とか、アジャイルメディア・ネットワークの「アンバサダー・マーケティング」といった考え方にも通じると思うのですが、顧客との関係性は新しいデマンドを生むことにもつながりますよね。新規顧客を増やしたかったら既存顧客に徹底的にいい体験をしてもらう。他の人に薦めたくなるくらいに。B2CでもB2Bでもそういうところはあるんじゃないかと思いますね。

加藤 自分の仕事でもお客さんがいい思いをしてくれると、そのお客さんがまた次のお客さんを連れてきてくれたりしますし。弊社も仕事で絡んでいるのですが、クアルトリクスというベンダーはアンケートをWebで簡単にとって、その回答をすぐに見られるようにして、CXの改善に役立てるということをやっていて。その辺ともつながってくるのかなと聞いていて思いました。

織茂 本来、デジタルマーケティングって、とても健全な世界だと思うんです。それは、成果がガラス張りだから。打った施策の結果が全てわかり、嘘がつけない世界。そういうところが好きなんですよね。「お客さまの成功のために」って、いかにも綺麗事だけど、それが実現できなければ自社も成功できないなら、綺麗事を押し通すしかない。
「マーケティング」という言葉にどこか軽薄なイメージを抱いている人は少なくないと思います。調子のいいことを言って人を騙してろくでもないものを売りつけて自社だけ儲けるというような。カスタマーサクセスを中心に据えたデジタルの世界では、もはやそういうインチキ商売は成り立たなくなってきていると思います。顧客と正直に対峙して、皆が幸せになる世界。そこに近づこうとするマーケターに貢献できるような記事を一本でも多く出していきたいなと。

加藤 何だかいい話が聞けましたね。


聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志
写真 :村上福之