主にシード期のスタートアップに投資する独立系ベンチャーキャピタルのCoral Capitalは、起業家を次のステージに導くための様々なサポートを提供しています。その中でもPRは力を入れている活動の一つ。起業家の成長を促す様々なコンテンツを提供するCoral Insightsで、編集長を務める西村賢さんにお話を伺いました。今回は後編でCoral Capitalに入ってからのお話を伺います。

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Coral Capital Partner & Chief Editor 西村 賢さん

■プロフィール
早稲田大学理工学部物理学科在学中から月刊誌で連載を持ち、卒業後はアスキーの編集・記者としてネット・デジタルを幅広く取材。2006年にアイティメディアへ入社、ITエキスパート向けWebサイトの「@IT」で副編集長としてエンタープライズITやソフトウェア技術の動向だけでなく、DropboxやAirbnbなどY Combinatorの創業者らを数多く取材。2013年にTechCrunch Japan編集長に就任し日本のスタートアップ、起業家らを数多く取材。約5年間で年次イベント「TechCrunch Tokyo」の来場者数を3倍にするなど日本のスタートアップエコシステムの成長にメディアとして貢献。2018年Googleに入りスタートアップ支援や投資関連業務に転身、2019年8月から現職。

Coralでやっている編集の極意


― Coralの情報発信活動は西村さんが入ってから変わったと思います。どこをどう工夫したのでしょうか。

西村 賢さん(以下、西村) 創業パートナーCEOのJamesはデザイナーでもありますし、元々サイトのデザインも含めていろいろなことをCoralは自分たちでやっていました。欠けていたのは編集の視点だけだった。僕の認識では、編集のスキルやテクニックの価値は一般に思われているより高い。世の中的に素材はたくさんありますが、素材を見つけて見せる形に編集できるリソースが足りていません。

一例としてオウンドメディアの運営で言えば、誰が誰に向かって話をしているか、映画のカットで言えば、まずカメラアングルを決めることが大事です。カメラは動いても構いません。ただあまりにも頻繁に動くと、誰が誰に向けて書いているかがわからない文章ができてしまう。例えば「桜が咲いてきましたね。ビーコミの加藤です。こんにちは。」という文章をいきなり読まされると「誰?」って、なりますよね。

それからメッセージには統一感やコミュニティー感も必要です。ファッション雑誌で「〇〇読者には何とか」という読者全体を「自分たち」として指し示す表現が目立つように、どの媒体にも特徴的な言い回しがあます。僕自身も「Coral Insights読者ならご存知の通り」を意識的に使っています。常に一貫したメッセージを出すことで「ここはそういう場なんだ」と共通認識が醸成されるわけです。

いわゆるトンマナ(トーン・マナー:文体や言い回しの特徴)の統一も大事ですし、専門的なことを扱う場合でも常に非専門家を意識して「自分には関係がない」と感じさせないように解説的な情報を埋め込んでいくのも大事です。これは専門媒体を経験してきたから逆説的に思うことですが、ギョーカイ感や内輪感を消して、より広い層にメッセージを届けるのがメディアの役割と思うんです。Coralのメディアは自分たちだけのためにやるのではなく、日本におけるスタートアップの存在感を高めたい、もっと多くの人に目を向けてほしいと思ってやっています。

今のTwitterは21世紀初頭の新聞の一面だと思う


― 西村さんのやっている編集の仕事ってどんなことでしょうか。

西村 僕がCoralでやっているのはブログ、YouTube、ソーシャルメディアですが、基本的に構成を考えることです。例えば、オウンドメディアでサイトを立ち上げたとしましょう。今の読者はTwitterやNewsPicksなどを経由してやってきます。大手新聞やヤフーは別として、余程強いサイトにならないとトップページには来てもらえません。じゃあどうするか。今のTwitterは21世紀初頭の新聞の一面だと思っていて、RTされやすい投稿方法を肌感覚で知っている人が運営をやっているかどうかで、持っている素材が生きてくるところがあるように思います。素材は世の中にたくさん溢れていて、みんなが「うちは良い素材をたくさん持っている」と思っていますが、一般の人にとっては「知らんがな」ですよ。素材を活かせるスキル、それをどう広げるかという肌感覚がない人がいきなりオウンドメディアを始めても難しい。中にはすごくいいインタビュー記事を出しているのに、見せ方や拡散のところができてなくてもったいないと思う会社も少なくありません。

記者に「知らんがな」と思われていないか?


― せっかくお金をかけてやっているのに、埋もれてしまうのはもったいないですよね。

西村 Coralとしてはソーシャルメディアを活用し、オウンドメディアに力を入れることで自分たちのことはもちろん、スタートアップの存在感を高めたいと思っています 。日本のスタートアップへの年間投資額は4000〜5000億円程度ですが、対する米国は14兆円、中国も10兆円規模と圧倒的な差があります。GDP比で見ても小さすぎです。これはスタートアップ投資の方法論が定着していないからだと考えています。また、情報の非対称性の問題もあります。投資家は1カ月で数百件の案件を見ていたり、過去に多くの投資実績もあるかもしません。でも、起業する人たちの多くのは初めてなのです。ここには情報の非対称性があります。投資家側が持っている知見や情報を広く出してしまうことは、自分たちが持っている有利なポジションを捨てることにもなりますが、それでいいと思っています。もし情報に非対称性があるとしたら、それはアンフェアな話です。実は英語圏では情報の非対称性はかなり解消されています。そうならないと起業やスタートアップは増えません。だから、僕の仕事は情報の非対称性を壊すこと。少なくとも起業家が不利な立場にならないようにすることが大事だと考えています。

― 自分たちの会社のブランディングだけではなく、もっと広い視野で考えていると。

西村 メディアを運営している人たちは基本的に同じ思いだと思います。誰かの役に立ちたいとか、より大きなコミュニティーや社会のためにという気持ちが第一です。そこに 少しだけ広告を混ぜる。そこが編集者の腕の見せ所です。僕は商業メディアで記事広告(記事の形式の広告。ペイドパブリッシングなどとも言われる)をやってきたので、読者に提供する価値を考えてベストなアングルを提案する仕事に慣れています。広報も同じで、相手が何を欲しがっているかではないでしょうか。例えば新聞記者は常にネタを探しているものです。ただし、良いネタは欲しいけれども、別にあなたの会社に興味があるわけではありませんよね。さっきの「知らんがな」は「読者にとってどうでもいい」という意味でもあります。広報の人たちは意外に「私たちはこんなすごいネタを持っているんです」の話をしがちですが、それが対象媒体の読者の興味関心に合っているのか、これまでになかった話なのかは別です。メディア露出を狙うときには、相手の記者やプロデューサーがどんなネタを探していて、何に困っているかに着目してほしいですね。

― 自分の会社の論理に囚われていると「知らんがな」になる。広報はマインドセットを変えないといけないわけですが、どうしたらそうなれますか。

西村 記者は厳しいですよ。つまらなかったらすぐシャットアウトしますし。でも、本当のところ記者が厳しいんじゃなくて、情報の受け手である読者や視聴者が厳しいんです。厳しいというか、忙しい。情報の受け手からしたら読むのも見るのも時間の投資。その投資の基準は本当に厳しいんです。読んでみた記事が役に立たなかったり、面白くなかったら、がっかりしますよね?

だから、必要なのは持っている素材を相手が欲しがっている形にパッケージして持っていくことです。できる広報は、取材に繋がりそうにないプレスリリースを送るときであっても「これはあなたの媒体の特性、読者の関心とは違っていると思いますが、こんな切り口であればお話しできると思いますので、いつでもご相談ください」と一言添えています。うまいなと思いますね。それと、メディアで働いている人たちも人の子なので、関係性の構築も重要です。愛されるスタートアップってあるんですよ。応援したくなる創業者がいるとか、その会社の社会的意義をうまく伝えられているとか。自分たちの魅力の伝え方は広報の腕の見せ所だと思います。

コンテンツの本質はエンタメである


― 最後に西村さんの経験から、困っている広報の人たちへアドバイスを伝えたいのですが。

西村 さっきの「知らんがな」に関連してもう一つ。元メルカリ広報のりっちゃ(中澤理香)さんが言っていたことに、「組織がある程度以上の規模になると、社内に外の声を届けることが必要になる」があります。ある程度ビジネスが軌道に乗ると、社内の人たちは自分たちのやっていることが社会にわかってもらえていると錯覚しますが、メルカリのようにユーザーが1000万人を超えるところまで成長しても、世の中的には誰も知らないことがありえます。

― 確かに。社内に「記事が出ましたよ」とは伝えていても、「社外からこう思われていますよ」まではできていないかも。

西村 だからこそソーシャルの反応を社内にフィードバックするべきです。知られていない場合、誤解されている場合は尚更です。そもそも知りたくないと思われているかもしれません。

― コンテンツを拡散させるコツはありますか?

西村 苦い薬を飲みやすくするために砂糖衣で包むように、情報を伝える時は答えを知りたいという気持ちをかき立てる工夫をするのが良いと思います。あと少なくとも「お土産があること」。読んで何か学びがあるとか、ちょっと面白かったりする何かがあること。僕は全てのコンテンツは本質的にエンタメだと思っています。読んで面白かった。誰かに話したくなる何かがある。そうやってパッケージにしないとメッセージは遠くまで届きません。良いものだからみんなが興味を持つとは限りませんから。

― 確かにCoralの記事には、忙しいのに、今、シェアしなきゃと思わせるものがあります!

西村 シェアの時代、記事で言えば最後の締めくくりのセンテンスも大事です。タイトルもですが、爽やかな読了感を作り出すのが最後の一文。そこまで気を配れるかが編集視点で、同じことが広報にも求められるのではないでしょうか。

西村さん、ありがとうございました!

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:冨永裕子

主にシード期のスタートアップに投資する独立系ベンチャーキャピタルのCoral Capitalは、起業家を次のステージに導くための様々なサポートを提供しています。その中でもPRは力を入れている活動の一つ。起業家の成長を促す様々なコンテンツを提供するCoral Insightsで、編集長を務める西村賢さんにお話を伺いました。今回は前編としてCoral Capitalに入る前のお話をお届けします。

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Coral Capital Partner & Chief Editor 西村 賢さん

■プロフィール
早稲田大学理工学部物理学科在学中から月刊誌で連載を持ち、卒業後はアスキーの編集・記者としてネット・デジタルを幅広く取材。2006年にアイティメディアへ入社、ITエキスパート向けWebサイトの「@IT」で副編集長としてエンタープライズITやソフトウェア技術の動向だけでなく、DropboxやAirbnbなどY Combinatorの創業者らを数多く取材。2013年にTechCrunch Japan編集長に就任し日本のスタートアップ、起業家らを数多く取材。約5年間で年次イベント「TechCrunch Tokyo」の来場者数を3倍にするなど日本のスタートアップエコシステムの成長にメディアとして貢献。2018年Googleに入りスタートアップ支援や投資関連業務に転身、2019年8月から現職。


1年間の休職をきっかけに身に付けた英語力


― 西村さんのことを知っている人も多いと思いますが、経歴から教えてください。キャリアの最初から編集の仕事をしていましたよね。

西村 賢さん(以下、西村) 大学では物理専攻でした。学生時代はコンピューターが好きすぎて、当時たくさん出ていたパソコン雑誌でライターを始めたのが、今に至るキャリアのきっかけです。その流れで卒業後はアスキーに入社しました。

― 西村さんと言えば英語が得意というイメージです。それは留学経験があるからですか。

西村 正規の留学ではありませんが、アスキー時代に1年休職して米国で勉強した経験はあります。当時から英語ぐらいはできないとねと思っていて、であれば1年ぐらいガッツリやろうと思ったんです。仕事でも英語を使う場面があったので、渡米前から勉強はしていて、当時のTOEICのスコアは900でした。じゃあ後は練習だと思って米国に行ったものの、現実は違っていましたね。1年間めちゃくちゃ勉強して、帰国後も5年ぐらい勉強を続けました。今は冷や汗をかくことなく自分で英語の取材ができて、会議もできるし、ディスカッションも困りません。

― その勉強法のポイントをざっくり言うと?

西村 英語の話をすると1時間以上かかるので、1つだけ挙げるとすると「ドラマを観ること」。これはものすごくおすすめです。まず英語字幕にして英語でドラマを観られるようにする。TOEICのスコアで言うと950ぐらいでしょうか。結構ハードルは高いですが、そこから5年ぐらいやるとかなりわかるようになり、徐々に話せるようになると思います。

― 広報の人たちも英語の勉強はするべきでしょうか。

西村 どんなキャリアを志向しているかにもよりますが、英語は汎用スキルなので良い投資じゃないでしょうか。一般に想像するより、年齢はさほど関係ないと思います。スタートの年齢が早い方が有利ですが、35歳くらいからでも全然できると思います。語学はやる長さの方が重要です。それから自分の適性と希望にマッチしているか。広報の人たちはコミュニケーションを得意としているので、適性のある人にとっては有利な投資になるでしょう。とはいえ、1・2年でなんとかできると考えない方がいいですね。

事前予測しての実現は難しいイマドキのキャリア構築


― ありがとうございます。この辺りでご経歴の話に戻りましょうか。

西村 アスキー時代は紙とWebの両方を経験しました。当時はコンシューマーが使うデジタルを扱っていましたが、徐々に時代は変わり、会社がITを使う世界が大きくなっていました。そのタイミングでアイティメディアに移り、企業向けのテクノロジーを取材する記者になりました。ITを会社が使うときには、コンシューマーの場合とは違う問題がある。そこが面白くてソフトウェアエンジニアリングにも興味を持ちました。当初の取材先はIBMやOracleなどが中心でしたが、Googleなどを取材するうちにアメリカのスタートアップや起業家との接点が増え始めたんです。スタートアップはこれからの世の中を動かすトレンドになるかもしれない。そう思っていたところにTechCrunchから誘いがあり、2013年から日本版の編集長をやることになりました。2018年まで編集長を務めた後、Googleに移ります。当時のGoogleは日本でスタートアップの支援拠点を立ち上げようと計画していて、その旗振り役をやってほしいと声をかけてもらいました。

― 西村さんの転機には、いつもどこかから声がかかりますね。そしてバッターボックスに立てる準備が整っている。

西村 メディアは観察者なのでバッターボックスに立っているとは思っていませんけどね。ただ言えるのは、今の時代のキャリアは事前に設計できるような類のものではないのかな、ということです。例えば僕がキャリアをスタートした頃は、「スタートアップ」という言葉は影も形もなかった頃です。その時々で自分が楽しく、得意なことで社会に貢献できること、最もインパクトが出せる仕事は何かを考えながら、少しずつつないで今があります。Coral Capitalには創業パートナーCEOのJamesに誘われ、入社しました。

― Googleをやめる時、周りの人から「もったいない!」と言われませんでした?

西村 キラッキラッの会社ですしね。でもスタートアップ界隈の人たちからは「西村さん、おかえりなさい」と言われました。Googleの社員でいると、「Googleの西村」としては発言できない。個人の西村としてはご自由にどうぞというスタンスなんです。まあ、当然ですよね。日本のスタートアップ業界に貢献しようと思ってGoogleに入りましたが、Coralであればコンテンツで貢献できる。外から見て、Coralの情報発信のやり方として「ここがもったいない」と思っていたところの改善を今やっています。

後編に続く

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:冨永裕子

ソフトウェアエンジニア向けの雑誌として草分け的存在である技術評論社の「Software Design(ソフトウェアデザイン)」(https://gihyo.jp/magazine/SD)。同誌に寄稿することはエンジニアの憧れでもあります。その編集長として活躍されている池本公平さんに、今や貴重な存在となっている技術系雑誌メディアとしての在り方や注目の技術領域、そして雑誌掲載にあたってのポイントについてお話を伺いました。

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■技術評論社 Software Design 編集長 池本公平 さん

■プロフィール
株式会社技術評論社雑誌編集部ソフトウェアデザイン編集部編集長
ソフトウェア開発、ネットワーク技術、機械学習、科学など、幅広く雑誌・書籍の企画・編集を行う。『小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記』、『なぜ、あなたはJavaでオブジェクト指向開発ができないのか』『プロになるためのWeb技術入門』『ITエンジニアのための機械学習理論入門』などの書籍を企画。気がつくと月刊誌Software Designを10年以上。


SI会社でデスマーチを体験し雑誌編集者に転身


― 池本さんのキャリアについてお聞かせください。技術評論社に入社されたのはいつ頃でしたか?

池本公平さん(以下、池本) 1995年に転職して、書籍の編集を担当した後に『Windows NT PRES』という雑誌を2001年ごろまで担当し、いったん書籍編集に戻って2009年からSoftware Designです。いろいろあって2012年から編集長を務めています。

― 編集長歴が長いですね

池本 約30年の歴史がある雑誌なのですが、歴代でおそらく一番長いですね。

― 学生時代から技術的なことは勉強されていたのでしょうか。

池本 大学の研究室でパソコンに出会い、実験データの処理に使ったり、簡単なプログラミングをして論文を書いたりしていました。卒業後にコンピュータに未来を感じてSI会社に入るのですが、いわゆるデスマーチで体調を崩しまして、しばらくした後に出版社に転職しました。そのSI会社が大型機中心で、クラサバが流行り始めた時代だったのにPCがわかる人間がいなくて、結果として自分で勉強することになり、それでIT系の書籍や雑誌を買い込んでいるうちに技術評論社の存在を知りました。

― 確かに昔のSI会社は労働条件がきつかったですよね。

池本 ですね。その時に出会った本が私の活動の原点です。当時はTCP/IPなどは日本で普及していなくて、自分の仕事をこなすために通信技術の本などを買い漁りました。給料の大半を本に費やし、ひたすら勉強です。名ばかりのOJTで誰からも教えてもらえない状況でした。それでPC系のプログラムやOSを全部自分で勉強しました。

― デスマーチの体験があって、それがあって技術評論社を知り......。

池本 きれいに言うとそうなのですが、アスキーさんとソフトバンクさんの本もたくさん買っていましたよ。そんな中で会社のプリンターがUnixマシンから出力できなくてLPRコマンドを調べていたのですが、それがたまたま載っていたのがSoftware Designだったんですね。

雑誌名が抽象的なので扱うネタも変えられる



― Software Designの媒体特性について教えてください。

池本 メディアとしては歴史が長いですが、中身はつねに変化してきたと思います。90年代末から2000年代初頭の内容は、インターネットの最新情報などごく一部のエンジニア向けのものだったのですが、ITバブルが到来して、だんだんコンピュータ技術者の仕事が一般企業の仕事になっていったのですね。それに伴って内容も変わってきました。

創刊当時はC言語、C++のオブジェクト指向などを取り扱っていたのですが、それから開発環境としてのワークステーションを採り扱うようになって、ワークステーションの通信機能を使うためにインターネットを特集するようになり、その普及に伴ってUNIXからLinuxが注目され、そのような過程を経て今に至ります。

先々代の編集長が、雑誌の名称が抽象的だから色々なことができると話していましたが、それは大きいと思います。OSも問わないし、ネットワーク技術もソフトウェア開発のネタも扱える。"今役立つ情報を提供する"というのがメディアの特性ですね。

― 編集部の体制はどうなっていますか。

池本 6人体制で、普通の編集部だと思います。基本的にスタッフライティングはせず、ほぼ依頼でやっています。

― 書き手はどうやって探しているのでしょうか。売り込みもあると思いますが。

池本 これだと思う方に直接メールやメッセージを送るケースが多いですね。スライドシェアで発表されて人気があるものをよくチェックしています。あとは筆者からの紹介も多いですね。 コロナ以前は発表会や勉強会、イベントで直接スカウトしていました。発表がうまいとか、その時のパワポの内容がいいとか。アウトプットが上手な方にお願いしたいので、書くことだけでなく話術も重視しています。

― コロナ禍でなかなかリアルイベントに行けませんが、現在はどうされていますか。

池本 現在「超絶エンジニアメモリーちゃん」という漫画を連載しているのですが、それはネットでスカウトしました。ただ後でわかったことですが、著者さんは著名なエンジニアの友人でした。業界自体がせまいのかもしれません。

ヒット特集を連発し定期購読数も増加



― 一般的に雑誌は厳しいといわれますが、数字面はいかがでしょうか。

競合誌がほぼなくなっているので、実は定期購読が伸びています。Fujisan.co.jpの定期購読分はここ10年で150パーセント以上も伸びていますし、電子版の本のダウンロードも伸びていてかなりいい状態になっています。

― 最近当たった企画を教えてください。

池本 最近では、5月号の「データ型を正しく説明できますか?」という特集です。静的型付けと動的型付け、言語の間違いという内容の特集を組んだのですが、みんなこのあたりをあやふやにしているので、非常に反応が良かったですね。C言語のポインタ特集もよくあたります。みなさん弱点なんですね。

予想外だったのが、CPUとかハードウェアに近い「低レベルソフトウェア開発」という特集です。これも筆者からの紹介案件で、正直当たるとは思わなかったのですが。想像以上に反応がよかったのです。いろいろなコミュニティの中で盛り上がっている内容を紹介されて取り上げることが多いですね。

Googleに採用されているソフトウェア技術者の共通項は?



― コミュニティの存在は重要ですね。

池本 そこはUNIX関連のソースコードをひたすら読んでいく「カーネル探検隊」というコミュニティなのですが、実は今後増やしていきたいのがそちら方面の記事です。

これまでの取材や交流から見つけた傾向なのですが、成功しているソフトウェアエンジニアにはハードウェアをきちんと理解しているという共通項があります。実際日本のGoogleに採用されているエンジニアの共通項は、コンピュータのアーキテクチャをしっかり理解していることです。その辺のネタは、雑誌でも特集すると当たるんですね。データ型やCPUなどコンピュータの中の仕組みが分かっていれば、メモリのアロケーションのしくみをがわかるのでそんなに困らない。そのあたりを理解するためにアーキテクチャの理解は必要なのです。

― 確かにその領域を取り上げているメディアも少ないです。

池本 根底の部分でそういうところを押さえたいですね。通信の仕組みとか、基本的な部分は大事にしていきたいです。

AWS活用に通ずる古のUNIXテクニックを紹介



― 基本的な部分の紹介は毎回繰り返しで似たようなコンテンツになってしまいませんか?

池本 それでも大丈夫です。今の読者プロファイルを見ると、20代後半の山と40代後半から50代の山がありますが、私が異動してきたときには50代の一山だけでした。それでは10年もたないと思い、若返りを画策したのですが、その際の企画の1つがITの基本でした。後押しになっているのが、クラウドサービスであるAWSの普及です。

ある著者さんから、最近の技術者はHistoryコマンドを知らないという指摘がありました。AWSを使うにあたってSSHで接続してターミナルで操作するときに、古(いにしえ)のUNIXのテクニックを一切知らない人たちが多く、毎回コマンドを打ち直し、シェルも知らないと。そうした世代の知識ギャップを見つけて特集を組んだら当たった訳です。

そこで本誌のテーマは、「若い人には新鮮、ベテランには復習」なのです。料理のレシピ雑誌で「味噌汁の作り方」みたいな記事がよく載っていますが、それと同じです。ベテランは基礎をないがしろにしちゃうときがあるんですね。

― 基本的なものは、時代を反映させる形で取り扱っていけばいいということですね。

池本 なるべくそういう所を考えています。別の見方をすれば、最新情報を載せていればいいという時代から、個人のスキルアップに内容や軸足をシフトしたことで売れるようになっているということなのです。かつてネットが普及した時に本が売れなくなるのではと社内で議論になったのですが、そうではありませんでした。

― ネットで来た情報よりも、プロがしっかり情報を収集し整理して届けたものの方が評価されていると。

池本 データ型の特集に関しては、根本はメモリなのですが、そこに至るまでの味付けは担当編集者の腕です。ネットと雑誌の違いは、ネットは情報収集段階にとどまっているということ。例えば大規模なシステムが必要なものは、個人レベルではできません。ネットでPVを集めているからということで本や特集にしても売れない。つまり、個人のスキルに密着したものでなければ売れないんですね。オブジェクトストレージを特集したら外すけど、エディターの特集は毎回当たる。そこで、「半径3メートル以内の記事を作れ」と指示しています。

後はプログラミング言語ですね。RustもGoも良かったですし、新しい言語に皆さん興味があるようです。紙媒体はお金を出して買うものなので、得にならないといけない。そこがネット情報との違いですよね。

優秀なエンジニアの執筆を通じたアプローチが有効



― 企業側から見た話を少し伺いたいのですが、Software Designにうちの記事を載せて欲しいという広報担当者は多いと思います。そのような人はどうすればいいんでしょうか。

池本 自社製品のPRでなく、読者のためになる記事という条件で寄稿していただいています。ただそこに至るまでに、準備不足な広報担当者さんが結構いらっしゃいます。自社は何を売っていて他社商品との違いをうまく説明できないとか、どうサービスが優れているのかを言い表せないとか、読者に対して何を伝えたいのかをあまり分からないまま依頼に来るというか。

― なるほど。準備不足のままにアポを取ってしまうケースがあるんですね。

池本 具体的に伝えていただければ、こちらもどういう読者に向けでどんな紙面を作れるか検討できます。あと、製品やサービスを推すよりも、こんな優れたエンジニアがいるということをアピールするほうが会社にとってプラスになると思います。こういうサービスを作った人が素晴らしい原稿を書いている!というアプローチが、遠回しに会社の技術力のアピールに繋がり、人材募集によい結果を出すのではないでしょうか。メルカリさんがGo言語の連載をしているのですが、内容がとにかくすばらしく、同社の技術陣のレベルの高さを知らしめる結果になっています。

また、この世界や技術には基本的にわかりづらさというのがあるので、そこをどうサービスとして説明するかという視点も重要です。例えば我が社の強みはKubernetesですではなくて、Kubernetesを使ってどう役に立つものを作っているのか、どうやって儲けているのかを伝えて欲しいですね。そこをちゃんと説明していただければ、こういう記事でという話はできると思います。

会社の存在理由をしっかりと把握した上で適切な広報活動を



― 編集部に挨拶に行きたい、プレスリリースを持っていきたいという前のめりの姿勢ではなくて、うちの会社の強みはこうでこんな状況ですとしっかり足元を固めた状態で話ができると次に進む可能性が高くなるわけですね。

池本 そうですね。以前持ち込みで、StrutsのレガシーシステムをSpring Framework にマイグレーションするサービスを提供している会社に短期連載記事を書いていただきました。いまやセキュリティホールの問題しかないStrutsをどうやってSpring Frameworkに開発しなおすかという話を、自社商品の話は無しという条件でしたが、レガシーシステム移行のエッセンスを惜しまず書いていただけました。こうした記事ならば、宣伝ではないので読者も安心して読めます。そうなると反応がいいですよね。

― なるほど。サービスそのものを紹介するよりも、今取り組んでいることを伝えることで会社のことも理解される、読者も得るものが大きいということですね。

― 最後に企業の広報担当者へのアドバイスやメッセージをお願いします。

池本 自社製品の本当のメリットをうまく表現できる方が、案外少ないのです。もちろん中にはすばらしくわかりやすく表現してくださる方もいらっしゃいますが、ついスペックの説明だけで終わってしまう場合がけっこうあります。仮想環境のライセンスが豊富にあるとか、太い回線を使っていますとか、最新のネットワーク機材を使っていますとか、そうした説明は、ユーザーにとって本当に有益なのでしょうか? もっと顧客が抱えている問題に踏み込んで解決するような説明が欲しいのです。たとえば、このシステム導入で1日30分も帰宅が早くなります、といったよりユーザーの問題解決に近い話です。

どんないい商品でも、自分の会社が何をやっているのかを説明できなければうまく伝わりません。まずはビジネスを実行している根本的な理由を伝えることが大切です。

当社でいえば、実用書を作ることが存在理由で、その上で専門書ではなくて実用書でなければ駄目だと社長がいつも訓示します。実用書はちゃんと編集者が内容を理解して出さないといけない、素人の編集者でも理解できるように技術をわかりやすく書いたものでないとダメだと。実際にこの立ち位置からずれてしまうと売れない本ができてしまうんですね。一人ひとりの社員が問題を消化して、どのように自分の形で表現できるか。広報やPR活動にしても、そこが大切なのかもしれません。


池本さん、本日はありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:石田仁志

広報PR担当者であれば、必ず知っておきたい個々の媒体特性。しかし、意外と理解しているようで知らないことも多いのも事実です。
各メディアの方がいま取り組んでいること、広報担当者に感じていること、これからの在り方など、ぜひお伝えできればと思います。

今回お話を聞いたのは、2018年より編集長としてご活躍中の「週刊BCN」編集長 本多さんです。
メディアの入れ替わりも激しい昨今において、ITビジネス専門紙「週刊BCN」は今年で創刊から38年を迎えました。

「ITビジネス専門紙」の編集長が考える読者に共感されるコンテンツづくり、そして、日々変化する法人向けITビジネスにおける時代の流れをどう見ていらっしゃるのでしょうか。

BCN_Honda_san01_1.jpg本多 和幸(ほんだ かずゆき) 編集長 プロフィール

1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、2013年、BCNに入社。業務アプリケーション領域を中心に担当。2018年1月、『週刊BCN』編集長に就任。



メディアのコンセプトも時代の変化に合わせてアップデート、成長するエコシステムに注目。



ー BCN編集長に就任されて1年くらいでしょうか。

本多和幸さん(以下、敬称略):編集長が変わってから2年近く経ちますね。あっという間でした。

私自身は、大学卒業後に水道事業の動向を伝える専門新聞社で、9年間記者をやっていました。

BCNのメディアとしてのコンテンツづくりに携わる人材は比較的中途採用者が多く、彼らは基本的に紙メディアでキャリアをスタートしています。記者職以外の編集デスクやデザインチームも、長く紙をやってきた人たちなので、とても頼もしい存在です。

現在、私は紙媒体である週刊BCNの編集長を務めていますが、近年、弊社全体ではWeb媒体にも当然力を入れています。新卒で入った記者が紙とWebの制作両方に関わることができるのは、ITビジネス専門メディアとしてはもはや希少種ですね(笑)。

ー 御社の場合、Webは後発だとおっしゃっていますが、編集部としての方針はここ数年で変わってきていますか?

本多:基本的な読者ターゲットは変わっていません。ただ、昔からのファンでいてくれる読者の皆さんに支えていただいている一方で、40年近く続けていると、メディアとしての資産が老朽化してしまうという側面も少なからずあります。若い世代の読者をいかに増やしていくかは大きな課題ですが、そのためには読者との接点やエンゲージメントのあり方をWebも含めてトータルで再設計・再構築しなければならないわけで、その変革の途上にあるという感じですね。

メディアのコンセプトも時代の変化に合わせてアップデートしていく必要があると実感しています。BCNといえば法人向けITのディストリビューターやリセラーのためのメディア企業というイメージをお持ちの方も多いでしょうが、まさに週刊BCNは創刊当初から「IT流通」にフォーカスするメディアとして情報を提供してきました。ここでの「流通」というのは、モノ売りのための販路や商流というニュアンスですね。しかしもはやクラウドサービスがあたりまえになり、ハードウェアですらサブスクリプション型のビジネスモデルが出てきているわけです。

「流通」って、どうしても生産者→販売者→顧客とモノが一方通行で流れていくビジネスを想起させてしまうところがあると思っていて、いまの市場を考察するための軸足の置き場としては範囲が狭すぎるというか。ですので、現在の週刊BCN編集部は、「ITビジネスエコシステム」を探求するメディアであることを自らの存在意義として紙面制作に取り組んでいます。「成長するエコシステムとは何か?」という視点で深く市場を探っていくことで、IT業界に貢献したいです。

ー 媒体としての価値をどう提供して行くかということですね。編集長としてのこだわりや積極的に取り組みたいとお考えのことはありますか?

本多:編集長にはビジネスとして成立させる媒体を作る責任がありますが、広告モデルだけでは先がありません。これはWebも同様です。現在、イベントの開催にも力を入れていますが、これは企画・営業側とも連携してもっと強いコンテンツにしていかないといけないと思っています。ただ、やはり一番の課題は先ほども申し上げた、Webも含めた読者とのエンゲージメントの再設計・再構築というところです。いろいろと模索はしていますね。

ー Webメディアが台頭するなか、紙媒体を長く続けているのは大変意義のあることではないでしょうか。

本多:紙媒体の価値はまだ高める余地があるのではと思います。特に、週刊媒体は。

「WIRED」日本版の編集長をされていた若林恵さんがどこかで発言されていたのを目にしたのですが、少なくとも仕事をしている人にとっては1週間というのは意味のあるサイクルであり、それに合わせてパッケージングされた情報は有用であるという趣旨のお話をされていたんです。私も同感です。

週刊BCNも、「週刊」の価値を最大化することを意識して、去年8月に紙面をリニューアルしました。読み物中心の雑誌的な作りからニュースをメインコンテンツにした作りに変え、BCN視点で「前週起こった重要トピック」について読み応えのある解説を交えて伝えられるようにしています。

ー BCN編集部の中で担当記者は業界ごとに分かれている感じでしょうか。

本多:編集体制としては、編集長+5名でやっています。社長交代などの速報ニュースを載せるときはBCNの記者がその都度書いています。「ハードウェア」「業務アプリケーション/ミドル系」「ネットワーク」「セキュリティ」「システム開発」のような大まかな担当割はありますが、実際の取材はそれぞれの記者が自分の担当分野以外も興味関心に従って自由に取材できる体制にはなっています。

市場のボーダーレス化が進んできている中で、全ての記者にゼネラルな見識を養ってほしいと思っています。ある程度網羅的に把握しておかないと自分の言葉で抽象化して市場を語れないんです。広報PRの皆さんにとっては情報提供しにくいかもしれないですが......(苦笑)

ー 取材対象の企業規模などはいかがでしょう?

本多:それもあまりこだわっていませんね。スタートアップの連載もこの秋から再び始めましたし、基本的に法人向けにビジネスをしているIT企業であれば、追いかけていきたいと思っています。

BCN_Honda_san02.jpg左:加藤 恭子(ビーコミ) 右:本多 和幸 氏


広報を重視している企業とそうでない企業、広報PRの二極化を感じる



ー 広報PRの方に求める情報提供のスタイルなどはありますか?

本多:連絡手段に関してはメール、SNS、電話など多様化していますが、こちら側からこうしてほしいといった要望はありません。

私たちが能動的に情報収集できる範囲は限られているので、日頃から若手の記者には、企業広報やPRの方を大事にすべきだというのは伝えています。たとえ締め切り前などの余裕がないときでも、せっかくのお電話に素っ気ない対応ではその後情報を提供していただけなくなってしまうと。

情報の内容については、Webメディアのストレートニュースとは異なる週刊ならではの視点で取り上げたいと考えているので、単純な新製品発表やバージョンアップのニュースだと記事掲載は難しいです。ただ、その発表がそのベンダーさんのビジネスそのものにどれだけ影響があるのか、また取り上げるにたるストーリーの存在がわかるように提示していただけると個別取材などを検討しやすくなります。個別取材すると記事化される確率は高くなりますので、独自の情報をちりばめ、取材の呼び水になるような情報提供をしていただけると大変ありがたいです。

余談ですが、BCNメルマガには「今日のひとこと」という記者のコラムがあります。各記者の興味や個性が如実に出ているので、参考にされると面白いかもしれません。

ー 今後増やしていきたい記事の種類やテーマはどの辺りでしょうか。

本多:個別のジャンルやテーマではなく「デジタルビジネス的な」要素を重視していきたいと考えています。多様化しているエコシステムの事例として、オープンイノベーション的なベンダー、パートナー、ユーザーによる「(ITビジネスの)共創事例」があれば、ぜひ掘り下げて取材したいです。

ー 情報収集などはどんなスタイルで行っていますか?

本多:取材対象との直接のコミュニケーションはもちろん、企業サイトを見ることもあります。エンジニアのコミュニティや業界団体の記事やブログを読んだりして、新しい技術や専門知識をお持ちの方のコメントなども参考にしています。SNSも使います。さまざまな領域のトップランナーの方々の情報発信は参考になりますね。

ー さいごに、企業の広報PR担当者へのアドバイスや伝えたいことなどありますか?

本多:広報PRを重視している企業とそうでない企業があり、プロフェッショナルとそうでない方の二極化が進んでいる気がします。広報PRの方にも立場があるように私たちメディア側にも書きたいことや発信したい内容があること、読者の期待やメディアの特色の上に成り立っているという前提を理解していただけたらありがたいですね。そうなると、お互いに幸せになれる確率が上がると思います(笑)。(了)

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)/高橋ちさ
構成:高橋ちさ/大西花絵

広報PR担当者であれば、必ず知っておきたい個々の媒体特性。しかし、意外と理解しているようで知らないことが多いのも事実です。

各メディアの方がいま取り組んでいること、広報担当者に感じていること、これからの在り方についてなど、お伝えできればと思います。

今回お話を聞いたのは、「ITと経営の融合でビジネスの課題を解決する」をテーマに数あるビジネス情報サイトの中でも独自の立ち位置で読者の支持を得ているビジネス+IT(https://www.sbbit.jp/)の編集長 松尾慎司さん。

同メディアの目指す方向性や、編集方針などについてお話を伺いました。

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松尾 慎司(まつおしんじ)編集長 プロフィール
ビジネス+IT 編集長

システムエンジニアを経て、出版社ソフトバンクパブリッシング(現SBクリエイティブ)に入社。『UNIX USER』編集部に所属後、準会員制オンラインメディア「ビジネス+IT」の立ち上げに携わる。ビジネスとITの融合点を10年以上にわたって取材。

同じようにやっていたら勝ち残れない



ー ビジネス+ITの編集を担当されるようになってどのくらいですか?

松尾慎司さん(以下、敬称略):元々は12年位前に社内ベンチャー的な形で立ち上がったのですが、その当時から携わっています。

ー どのようにメディア業界に入られたんですか?

松尾:もともとNPO法人でITエンジニアとして働いていたのですが、雑誌が好きで出版社に転職したいと考え、縁あって「UNIX USER」の編集部にお世話になることになりました。

ー ビジネス+ITに携わるきっかけは?

松尾:その頃すでに雑誌は厳しい状況になっていたこともあって、UNIX USERの休刊後に移行してきたというのが実際のところです。

ビジネス+ITはWebメディアを標ぼうしていますが、その出自がイベントや雑誌など、分散されていた社内のBtoB事業をまとめる形で一つになったという背景もあり、私は雑誌から来たメンバーの一人と言えます。

ー ビジネス+ITはどのような編集方針で記事を作っているのでしょうか?

松尾:立ち上げた当時、ITの領域でも色々なメディアがすでにあったので、はじめは他のメディアがやっているように記者発表会に出向いたり、速報ニュースを載せたりしていました。

でも、僕らは後発で、同じようにやっていたら勝ち残れないなと考えて、少しずつ編集方針を変えて行きました。

―具体的にはどのような変更をされたのでしょうか?

松尾:よりビジネスに寄せていきました。多くのメディアがIT系企業を取材の対象としていましたが、僕らはなるべくITを使うユーザー企業を対象に取材するようにしていました。これは似ているようで大きな違いだと思っています。

一方、僕らが立ち上げたころぐらいから、ITが関わる領域はどんどん増えてきており、今やビジネスになくてはならない存在になってきました。そのため、取り上げる領域が加速度的に増えてきたという状況です。

ー 確かにビジネス+ITは独自の立ち位置にいるように見えます。

松尾:独自の立ち位置かは分かりませんが、僕らの根底には「情報には(何らかの)対価が必要だ」という考え方があります。それは立ち上げ当初から変わりません。

10年前は多くのメディアで、ユーザー登録なしでも記事が読めるところが多かったように思います。でも、僕らは一部のニュース記事を除いて当時から無料の会員制を取っていました。他のメディアがPVやUUを重視している間、僕らはずっと別のところで情報に対する価値を作って来たように思います。

8人体制で担当分けをせず多種多様な記事を作る



ー 編集チームの体制について教えてください。

松尾:今は業務委託で来ていただいている方を除いて編集担当者が8名いますが、たとえば分野別の担当を設けることはしていません。

 我々の編集記事を作るときのKPIに合致する企画をそれぞれが考えて、それに合う著者さんや取材先を各人が割と自由に選定しています。ここでいうKPIを詳しくお話することは難しいですが、端的に言えば読者が知りたいと思うことを企画しています。ただし、個人としての興味関心ではなく、企業や組織に所属するパブリックな立場としての興味関心を重視しています。端的に言えば、会社のPCや会社支給のスマホで堂々と読んでいただけるコンテンツに限定しています。

ー DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉もあるように、最近はITとビジネスという分け方はあまりされていないので、特定領域に限定されない編集体制は時代に合っていると思います。ただ担当が分野別に分かれていないと、広報PR担当者はアプローチしにくいかもしれないですね。

松尾:確かに、僕らが取り上げている領域は多種多様で、広報PR担当者からはアプローチしにくいと思います。ただそれは自社視点でお考えだからかもしれません。世の中の読者の興味関心こそが重要で、その中で何を自分たちが担っているのかがわかれば、おのずとアプローチすべき媒体も、内容も決まってくると思います。

プレスリリースは将来の記事のアイデアに。ファクトチェックとしても活用



ー 広報PR担当者の方が読まれると思いますので、ぜひその辺りをもう少し詳しく聞かせてください。

松尾:僕が言うのものおこがましいですが、持ち込みをされるのであれば、例えば企画をパッケージ化してみたり、メディアが興味を持ちやすいようにアプローチすると言うのはあるかもしれないですね。具体的に言うと、競合のPR担当者と一緒になって、各社の製品の強みがそれぞれわかるような対談を提案するくらいのことは今の時代、求められているような気がします。

ー 編集のアイデアなどはどのように情報収集されていますか?

松尾:SNSや他媒体も読みますし、リリースやメールで情報を集めたりしています。

ファクトチェックなども編集部で行いますので、各社のホームページに使いやすい形でリリースなどの情報が揃っているととても助かります。

つまり、我々が企画したことやお話をお聞きしたいときにプル型で情報を取得できることがありがたいのですが、編集部としてはPRの方からのプッシュ型の提案はそれほど成約率が高くありません。

なかでも時間がかかるだけで、同じ内容になりがちな記者発表会の参加は原則としてお断りしています。

ただ、そういった情報でもメールなどの非同期型コミュニケーションツールでいただく分には大変ありがたいと思っており、「ちょっとビジネスやITに関係ないけど、、、」くらいの情報も送っておいてもらえると、意外なところで繋がってアイデアになったりします。

すぐに記事にならなくても、送っていただいた情報の中から探して、将来的に記事化に繋がったりしますので、広報担当者の方は、プレスリリースが掲載されなかったからといって失敗と思わず、ぜひどんどん情報を発信していただければと思います。

逆に電話のような同期型のコミュニケーションツールはわずらわしいことが多いですね。これは他のメディアの方と飲んでいるときもよく出る話題です(笑)。

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FinTech Journalを立ち上げ、専門家による解説を発信


ー 編集部としては今後どのようなテーマを扱っていく予定ですか?

松尾:直近では金融業界向けの「FinTech Journal」(https://www.sbbit.jp/fj/) というメディアを立ち上げました。今後は僕らのメディア全般、専門家の方が信頼性の高い情報をわかりやすく解説してくれるような情報発信を強化していきたいと考えています。

というのも、「セキュリティ」と言った時に「セキュリティの専門家」以上に詳しい方は編集部にいない訳です。ならば、僕らは専門家や有識者の「拡声器」として、世の中にとって必要な情報を発信できたらと考えています。

もちろん時事性がある方がいいですが、あまり他のメディアとして取り上げない領域やPVが取れるわけではないネタであっても、我々の基準を満たせば連載をお願いするケースは少なくありません。

ー スター編集者やライターを作り出すことは考えていますか。

松尾:それは、あまり考えていません。先ほども申し上げたように編集者はあくまで裏方であり、有識者の拡声器だと思っています。

僕らは誰かひとりのスター記者やスター編集者に頼るより、互いに尊敬できる多様性のあるメンバーで構成されたチームでいた方が、結果が出ると考えています。

 また、Webメディアならではのデジタルマーケティングのノウハウを駆使しつつも、伝統的なジャーナリズムで重視されてきた信頼性の高い情報を発信していく手法も日々、他の素晴らしいメディアから学んでいるつもりです。

データを活用しつつ、雑誌や書籍の良いところを取り入れたコンテンツを作り出して、両方の良いところを伸ばしていけたらと考えています。(了)

聞き手/構成:加藤恭子(ビーコミ)、高橋ちさ

広報PR担当者であれば、必ず知っておきたい個々の媒体特性。しかし、意外と理解しているようで知らないことも多いのも事実です。

各メディアの方がいま取り組んでいること、広報担当者に感じていること、これからの在り方など、ぜひお伝えできればと思います。

今回お話を聞いたのは、2019年4月より編集長としてご活躍中のTechTargetジャパン編集長鳥越さんです。編集部として強化していきたいと考えているテーマをはじめアイティメディアの媒体同士の棲み分けなど、BtoBのIT業界を長く見てきた鳥越さんならでは視点から広報PRに向けたメッセージをお伝えできたらと思います

ITmedia_torigoe_san.jpg鳥越 武史さん(とりごえ たけし) アイティメディア株式会社 TechTargetジャパン編集長

東京都出身。2008年、株式会社インプレスホールディングスに入社。IT Leaders編集部に配属、エンタープライズIT領域担当。2011年10月、アイティメディア株式会社 TechTargetジャパン編集部に移籍。2016年7月、同メディア副編集長に就任。2019年4月、TechTargetジャパン編集長に就任。

TechTargetジャパンの位置付けとその役割



ー 鳥越さんの今までのキャリアをお聞きしたいのですが、もともとメディアでの就職を希望されていたのですか?

鳥越 武史さん(以下、鳥越):大学院を卒業した後、新卒で株式会社インプレスホールディングスに入社しました。ただメディア業界を志望していた訳ではなく、工学部を出たこともあって、ITが好きだったんです。IT業界を広く観たいと思って、銀行やコンサルなどIT業界に広く携わる業界で探していました。その中の一つがメディア業界でした。

ー インプレスの編集部というと、業界の重鎮というか有名な方がたくさんいらっしゃる編集部ですね。

鳥越:はい。新卒で入ったのが編集部で何も知らずに入ったので、本当に恵まれた環境だったと思います。文章もほとんど書いたこともなかったので、入社当初は勉強の毎日でした。入社する前はインプレスでは記者職というより、企画を立てたりする編集のイメージが強かったのですが、先輩たちに取材のイロハを教えていただきました。大学院の頃は、主に研究室にこもって研究ばかりしていたこともあり、編集記者になって人に会う環境が求められるのは新鮮でした。自分は人に会うのが好きだったんだと初めて気がついたのもこの頃です(笑)。

ー 紙の雑誌からWeb専業のメディアに移られて、どういった変化がありましたか?

鳥越:大きな違いは締め切りのタイミングです。雑誌は一ヶ月に1度の締め切りなので、短距離走に例えられることがありますが、Webは小さな締め切りがたくさんあるので、マラソンといったイメージでしょうか。ただ大きな違いはなく、あまり違和感はありませんでしたね。
私の場合は、前職でWebメディアも担当していたというのもあるかもしれないですが、比較的スムーズに対応できたと思います。読者の反応がダイレクトに伝わるのがWeb編集の醍醐味とも言えます。

ー やはり随時記事のアクセスはチェックしているんですか。

鳥越:PVや会員数の推移はツールを活用してウォッチしていますが、TechTargetジャパンはどちらかというと解説記事を充実させることで会員数を増やしていけたらと考えており、PVの増加のみが評価されるような媒体ではありません。

会員数とPV数の両方を見た場合、万人受けする記事はPVは増えるけれども、会員数はそれほど増えなかったりします。その一方でPVが爆発的に多いわけではないけれども、ニッチな医療や教育といった専門分野のシステム導入記事などは会員になる人が増える傾向があります。この辺りは難しいですが、やりがいもあり面白いなと思います。

ー 御社の場合、いくつかグループの中でも領域が重なっている媒体もあるように見えるのですが、改めて、TechTargetジャパンの位置付けや読者層を教えてください。

鳥越:TechTargetジャパンは、ユーザー企業のCIOや情報システム部門の担当者といった導入決裁・選定に関わる人に向けた記事を提供しています。扱う内容は、システムやインフラ周りであったり、導入記事や比較選定に役立つ情報ですね。他のアイティメディアの媒体と異なるのは、海外のTechTargetとも提携しているので、国内だけじゃなく、海外の記事も多めに取り上げている点です。

ー よく聞かれるかもしれませんが、キーマンズネットとの棲み分けはどのようにされているのですか?

鳥越:ご質問にあった「キーマンズネット」との棲み分けですが、我々のやっているTechTargetジャパンと@ITはどちらかというと、サーバとかセキュリティといった全社規模の「社内インフラ領域」を扱うことが多いです。一方でITmedia エンタープライズとキーマンズネットは、事業部門のIT担当者に向けた「業務系のIT領域」という分け方になります。

ー TechTargetジャパンの今後増やしていきたいテーマなどあれば、教えてください。

鳥越:やはり全社ITのインフラ周りですね。特にオンプレミスを中心とした、SoR(Systems of Record)と親和性の高いインフラですとか、DX(Digital Transformation)を進めていくために、既存のインフラをどう改善していくかというITインフラモダナイゼーション等は積極的に取り上げていきたいと考えています。

ー まさに縁の下の力持ち的な部分のお話ですね

鳥越:そうですねえ。SoR領域は主にTechTargetジャパンで、SoE領域は主に@ITで取り上げる方針なのですが、今の時代はそれらを完全に切り離して考えることはできないので、クロスオーバーするところは、もちろんあります。

ー 職業柄お客様からTechTargetジャパンにホワイトペーパーを登録すると良いリード(見込み客)に見ていただけるというようなお話も聞くのですが、何か特別なことをされているんですか?

鳥越:ホワイトペーパーに関しては、コピーライティングの専門コンサルタントがレビューをしています。そういった仕組みもあって、良質なリードにつながっているのかもしれませんね。

ー 編集部の体制についても教えていただけますか?担当分けなどはしているのでしょうか。

鳥越:業界的に1〜2人の小規模編集部もありますが、うちは編集長と編集アシスタントも含めて7名の体制でやっています。担当ジャンルごとに編集記者が分かれています。
TechTargetジャパンでは「クラウド」「サーバ&ストレージ」「ネットワーク」「システム運用管理」「セキュリティ」「データ分析」「中堅・中小企業とIT」「医療IT」「教育IT」が、おおまかな担当ジャンルですが、クラウド領域とそのほか幅広く見ている編集記者も一人設置しています。
 最近は、新卒や第2新卒くらいの若いスタッフも増えてきていて、編集アシスタントも含めて男女比も女性比率が半分以上です。編集記者のバックグラウンドも様々ですので、ある意味ダイバーシティ編集部といえるかもしれません。

ー ジャンルの見直しや変更のタイミングについて教えてください。テーマはどう決めているのでしょうか?

鳥越:クラウドやセキュリティといった大まかなジャンルはざっくりと長期的に見て変わらないものにして、その中でテーマを変更するようなイメージでしょうか。
より具体的にいうと、5〜10年くらいはブレないジャンルにしていて、その中で、世の中の動きを見ながら、向こう3ヶ月のテーマを決めています。

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左:加藤 恭子(ビーコミ) 中:鳥越 武史 氏 右:高橋 ちさ

ニュースの速報性やスピードは重要ではない、必要なのはコミュニケーション


ー 企業広報の方が訪ねてきた場合どういう情報提供のスタイルだとコミュニケーションを取りやすいなどありますか?

鳥越:やはり編集者によって異なると思うので、無理を承知で申し上げると、コミュニケーション方法を各編集者に合わせていただけるとすれば、それが理想的だと思います。PR代理店の方によっては、媒体で扱っていない分野のプレスリリースをお送りいただいたり、お電話いただいたりする場合もあります。企業向けの媒体に、コンシューマー向けの情報をお送りいただくなどです。個人的にはウェルカムですが、編集記者によっては迷惑だと考える人もいる可能性がありますので、よく見極めていただいた方がPR代理店の方にとっても、編集記者にとってもよいと思います。

我々の媒体も記事を見るだけでは理解されにくいところもあると思いますので、私自身はお電話をいただいたり、直接お会いするのは全く苦ではありません。対面でのブリーフィングから記事になることも多々あります。その場合はもうすでにある程度まで企画が進んでいるという前提ですが。なので、PR代理店の方からMTGを求められた場合、必ずというわけではないのですが、なるべく時間を作るようにしています。

ー TechTargetジャパンはニュース媒体ではないと思いますが、プレスリリースに関しての扱いはどうですか?

鳥越:ご理解いただいている通りTechTargetジャパンはニュース媒体ではないので、リリースに関してはプッシュ型のニュースネタというより、データベースやファクトチェックとして使うこともあります。
送っていただいたリリースを見ながら、直近の流行りというか、盛り上がっているキーワードなどをチェックしたりします。

自分に送っていただいたリリースや情報であっても、他の媒体や編集記者の方がマッチするケースもありますし、個人だと見落とす場合もあるので、共通のアドレスと個人アドレスの両方に送っていただくと助かります。お電話いただく場合は、その時の担当編集記者の状況もあるので、なんとも言えませんが、情報自体は積極的に送っていただけるとありがたいです。
 情報をいただく際にも、この情報は@ITなのかTechTargetジャパンなのか、それとも他の媒体なのかを判断するのが難しい場合は、ご相談いただければと思います。

ー 個別説明の場を設けるスタイルや各メディアを一斉に集めて行う場合などもあると思いますが、発表会に関してはいかがでしょう。

鳥越:発表会に関しては、媒体ごとの特性にもよると思いますが、TechTargetジャパンの場合はニュース媒体ではないですし、発表会の内容をそのまま記事にするということはあまりないです。もともと「そのテーマで記事にする」と決まっていて伺うケースもありますが、直接記事にするかはわからないけど、興味のある編集記者に伝えたり、業界動向ウォッチのために伺うケースが多いです。
 個別説明や勉強会の場合は、個人でお話をお伺いすることで記事化されるかもしれない、と期待される方もいらっしゃるかもしれません。うちのようなストック型記事を掲載するメディアの場合、必ずしも記事化前提ではないことをご理解いただいた上でお声がけくださると大変ありがたいです。

ー 新規性という点ではニュースバリューが落ちてしまうので、プレスリリースも発表会も、タイミングを逃すとご紹介しにくいケースがありますよね。企画っぽい感じでまとめて提供した方が良かったりしますか?

鳥越:TechTargetジャパンは時間に関する考え方がニュース媒体とは異なりますので、「早く知る」という点は重要ではありません。それよりも、事例でも新製品でも発表した後のことの方に興味があります。事例であれば、導入直後だと分からない、システムを入れた後の変化の方に注目したいと考えています。入れたことで、こんなに売り上げが伸びたとか、こんな課題が出てきて失敗に終わったとか。TechTargetジャパンを読んでくださる読者のニーズにマッチするのは、最新情報のプラスアルファの部分だと認識しています。


企画を送ってもらうというよりも、ひとつのファクト情報だけではなく、いろんな追加情報や新たな視点からの情報をいただけると、企画につながる可能性は高まると考えています。広報PR担当の方と編集記者との、ある意味腹の探り合いみたいなところはありますが。
TechTargetジャパンとしては、導入後どうなったかの話に価値を感じます。導入後、半年から1年くらい利用された状況なども付加情報としてお伺いできると企画のタネになります。 元々持ってきていただいた情報じゃなくても、直接お会いしてお話しているときに出てきた情報に「それ、面白いかも」と気づくケースもあります。実はいま掲載されている事例記事は、結構そのパターンがきっかけになっていること多いです。

ー 最後に広報PR担当者に向けて一言お願いします。

鳥越:広報PR担当の方からすると、持ってきてくださった情報が直接記事になる方が嬉しいと思うのですが、こんな事を話しても記事にはならないかもしれないと思うようなことでも構いませんので、出来れば追加情報として色々な視点でお話いただけるとありがたいです。記事化という意味では遠回りのように見えますが、実はそれが最短距離になるかもしれません。
最近は若手の広報PR担当の方でも、ご担当のクライアントのことだけでなく周辺分野をよく勉強されている方が増えているように感じます。こちらもお応えできるように、勉強しなくてはと励みになります。
ぜひ広報PRとメディアと協力して、みんなで業界全体を盛り上げていきましょう。

鳥越さん、ありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:高橋ちさ

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世界的なネットワークを生かし、ビジネスにおけるIT活用の最新情報やその本質に関する情報を発信し続けているオンラインメディア「CNET Japan(シーネットジャパン)https://japan.cnet.com/ の編集長に就任された藤井 涼さんに、媒体の特徴や記者と広報担当者との関係についてお話を伺いました。

ITビジネス全領域をカバーできる自由度がCNETの魅力



藤井さんのこれまでの活動について教えてください。

藤井 大学4年生からインターンシップでお世話になっていたデジタルメディアの企業に2008年に新卒で入社しました。2年ほどプレスリリースをベースとした記事を書いていましたが、次第に自分でも取材したいという気持ちが高まり、2010年夏にCNET Japan(以下、CNET)に移りました。9年在籍して、2017年に副編集長、2019年5月に編集長に就任しています。今年の5月というのは、ちょうど経営陣をはじめ会社全体で組織を再構築するタイミングにあり、私も13年務めた前編集長からこの立場を引き継いだばかりです。日々のマネジメントのほかメディアの代表者として表に出る機会もあり、現場の一記者では経験できない多様な活動を求められる立場にやりがいを感じています。

CNETはどのようなメディア活動を展開されているのでしょうか。

藤井 CNETは、世界のITビジネスの情報を取り上げ、その本質を解説する媒体として幅広い領域の記事を掲載しています。また当社の場合、いただいた情報がよりエンタープライズ向けであればZDNet Japan、非IT部門の生産性向上やワークスタイル改革などの情報はTechRepublic Japanと、情報の内容によって自社の各媒体でカバーできるのも強みだと感じています。

米国のCNETの記事も翻訳して公開しています。米国では比較的ガジェットの話題を取り上げることが多いのですが、各国で注力する取材領域はローカライズできるため、私たちはクロステックの領域に注目しています。これまでに、Real Estate Tech(不動産テック)、Edtech(エドテック)、HealthTech(ヘルステック)、FinTech(フィンテック)、HRTech(エイチアールテック)、FoodTech(フードテック)などを積極的に取り上げてきました。

最低限の担当はあるものの、面白いと感じたものはどんどん載せていける環境です。最近だと、ラジオ局のJ-WAVEのイノベーションに関する記事や、歌舞伎の興行でチャレンジングな取り組みを続けている松竹の社長へのインタビュー記事を掲載しました。このように幅広いテーマを扱えるのも、全領域をカバーする媒体ならではの良さだと思いますね。

これらの幅広い情報を扱うのに、どのような体制で臨まれているのでしょうか。

藤井 国内の記事は私も含めて5人で担当しています。そのほかに米国のCNETの記事を翻訳するチームが2人いるので、全部で7人の体制です。ただ先ほどお伝えした通り、CNETの特徴は他のメディアのように「モバイル」「クラウド」といったセグメントが分けられておらず、全ての領域をカバーしているところです。そのため記者それぞれが抱えている幅が大きいので、正直なところ人手はいくらでも欲しいです(笑)。

情報をとにかく正確に、より深く届ける。判断するのは読者。



全領域の情報を発信するメディアとして大事にしている編集方針は何でしょうか。

藤井 まずは「社会課題の解決」という視点です。クロステックの取材を進めることで確信に変わったのですが、この領域のテクノロジーは圧倒的に課題ドリブンです。最先端のガジェットの話題より地味かもしれませんが、こうしたテクノロジーを取材して紹介することで明日の生活を変えることに繋がるとしたら、とても意義のあるメディア活動ではないかと感じています。

次に「ソーシャルファースト」です。ソーシャルメディアでどのように読まれるか、どうやってその情報を流通させるかを意識しようというスタンスで、会見の速報性を向上させたり、SNSでも注目されるようなテーマの取材を増やしています。昔ながらのやり方で時間をかけて良い記事を書いても、読者に届かなければ存在しないのと同じですから。

それから、前編集長の頃から変わらないのですが、CNETは話を盛りません。釣りタイトルをつけないことにこだわっています。とにかくその情報を正確に、より深く届ける。自分たちの意見をできるだけ入れず読者に判断を委ねたいというスタンスで、その分、テーマ性に工夫をしています。先ほど例に挙げた歌舞伎(松竹)のインタビュー記事でも、その新しい試みに対する自身の思いはあえて書いていません。読者がその記事を読んで、歌舞伎座に足を運ぶなり、批判するなり、何かしら興味を持って考えるきっかけになればそれで良いと思っています。

そういえば、メディアの記事に結論を求め、自分はそれをそのまま鵜呑みにするという、読み手側のリテラシーの問題もありますね。そのためか、メディアによっては考えずともすっと頭に入ってくるものを量産する傾向もあるように思います。

藤井 何も考えずに消費するコンテンツが読みたい時もあると思うので、それはそれでいいと思います。でも私たちはテクノロジーをどうにかしてビジネスに活用し、社会に貢献したいという人のためのメディアでありたいです。ページビュー(PV)も考えてないとは言いませんが、クライアントや取材先も良い読者がついているかという点に媒体としての価値を求めるようになっています。最近ではCNETだけにインタビューをしてほしいと選んでくださる方もいて、ありがたいですね。企業が出してほしいこととその記者が求めることがマッチして、きちんとした情報が外に出ていく。そうした良い関係がたくさんあるのが良いメディアだと思いますし、その傾向は強くなっていると感じます。

記者と広報担当者とは「対等な立場」で信頼関係を築くべき



企業の広報担当者からの連絡手段は何が良いでしょうか?

藤井 私の場合は、電話やメールよりもSNSやFacebook(フェイスブック)のメッセンジャーの方が良いです。メッセンジャーはフレンドじゃないので直接送るのは気まずい、という方はTwitterのダイレクトメッセージでも構いません。電話が困る理由は、取材等で不在がちなので電話に出られないとそのまま機会損失になるからです。やはり情報に気づけないことが最大のリスクです。メールだと気づくまでに時間がかかることがあり、逆に電話はリアルタイムすぎて手が空いていない時があるので、私にとってはリアルタイム性も高く、自分の好きなタイミングで返事ができるメッセンジャーの距離感がちょうどいいですね。極端な話、夜遅くだろうと情報を送ってもらいさえすれば気づくことはできるので、適切なタイミングで対応できますよね。

広報担当者は記者にどのような情報を提供して欲しいか聞いても良いのでしょうか?

藤井 そうですね。私は、両者の理想的な関係について、双方が対等な立場で信頼関係を持って情報を届けられる状態だと考えています。その意味では、その記者や媒体がどんな情報を求めているのか日常的に発信されている内容に目を通していればわかるはずですし、リアルな場で会話するのでも良いので、まず記者と広報はコミュニケーションを取っていくべきです。

たとえば私は、電話をしていただいて掲載がむずかしいと思ったときは「それは難しい。こういう理由で難しい。逆にうちで載せるとすると、こういう切り口なら載せられる」と説明します。というのも、はっきり言わず「検討します」で回答を先送りされたら、きっと言われた方はずっとモヤモヤすると思うからです。また手探りで見当違いの情報を送ってしまって悪循環になるかもしれない。だから入り口のタイミングできちんと言った方が互いのために良いと考えています。また、広報担当の方が掲載されなかった理由を自分から記者に尋ねたいという場合には、「どうしてダメでしたか?」と聞くよりも、「こういう理由でダメだったのですか?」と、予め仮説を持って訊かれるほうがいいと思います。そうしていただくと、メディア側としては「そうです」「違います」など説明がしやすくなるのでありがたいです。

ちなみにPR会社の方に同じような説明をしたところ、ある方は次の機会に、求めるキーワードに関連するネタを10本も用意してくださったことがありました。多数の商材や情報に通じているのはPR会社の強みだと思いますが、その際は10本中7本くらいはすぐに記事にならなくても面白い内容でした。記者も面倒がらずに、どんな情報が欲しいかきちんと説明した方が結果的にいい仕事につながるはずです。ですから、どっちがという話ではなく、双方が歩み寄り意識的にコミュニケーションをとることが大事だと思います。

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テクノロジーはもはやIT企業だけのものではない



取材を通じて感じるテクノロジーのトレンドや変化についてお聞かせください。

藤井 この数年、もともとIT企業ではなかったいわゆるレガシーな企業や領域でも、クロステック化の動きが顕著です。建設テックなどでは資金調達の話題もあり勢いを感じます。もちろん私たちがクロステックにフォーカスし始めたために目につきやすいというのはありますが、通信キャリアも農業事業に参入しているくらいですから、大きな潮流と言って良いのではないでしょうか。そこで重要になるテーマはAI、IoT、ビッグデータ、そして今後は5Gなどがトレンドとなってくると考えています。

今後CNETではどのような種類・テーマの記事を増やしていきたいとお考えですか?

藤井 これまではストレートニュースのメディアとして、プレスリリースや記者会見等のストック型ではない記事が多かったのですが、今後はCNETならではのインタビューや独自の切り口の個別取材記事を量産しようと考えています。私が編集長になってからのこの2ヶ月は、戦略的に業界の著名人、いわゆる一流の方々を取材させていただきインタビュー記事を数多く公開しています。そのほか、連載や特集記事にももう少し力を入れて、深みのある読み物コンテンツを増やしていきたいですね。あとは、引き続きクロステック領域の記事を増やしていきたいと考えています。

そうした記事を増やすためにどのような情報収集をされていますか?

藤井 TwitterトレンドとNewsPicks(ニュースピックス)、ヤフトピなどはよく見ています。フェイスブックも有効ですね。企業のトップや広報担当の方はリリースを公開後すぐフェイスブックでシェアするので、ウェブサイトに掲載するよりも先に気づくこともあります。それから、たくさんシェアされている記事やリンクが上に表示されるフェイスブックの仕組みを活用している企業もありますよね。社長のインタビュー記事やブログを複数の社員が自発的にシェアすることで多くの人に気づかれる。うまいやり方だなと思います。もちろん電話やメールなどで直接いただいた情報を記事にすることも多いのですが、FAXはもう使っていませんね。


重要なのはその情報が誰の課題を解決するのかという視点



あらためて、企業の広報担当者にアドバイスなどがあればぜひお話ください。

藤井 新サービスや資金調達など、新しいニュースがないと記事につながらないのではないかと考えられている広報担当の方もいらっしゃるかもしれないのですが、そんなことはありません。たとえば、「普遍的な課題の解決」につながる情報などは取材しやすいテーマの1つです。

以前すごく読まれた記事に『なぜ、「デジタル」を使いこなせない営業が多いのか--マルケト福田社長に聞く』と題したインタビュー記事がありました。ただの製品紹介ではなく「なぜツールを使いこなせないのか。じゃあどうしたら使えるようになるのか、使ってくれるのか」という顧客課題に触れ、解決に導いてきた企業のプロにインタビューする切り口です。雑誌のような記事ですが、「デジタルを使いこなせない人が多い」という課題はマーケター以外の人でも興味を持つと思います。すぐにリリースが出せないときでも、こうした企画なら記事につながることがあります。やはり記事が載ることをKPIにするのではなく、載せたあと、それは誰の課題を解決できる情報なのかという視点で説明していただけるとありがたいですし、そういうテーマの記事はぜひ書きたいと思います。

あとは繰り返しになりますが、結局は人間同士なので、互いに気持ち良い関係を作る努力をすることに尽きると思います。これは広報担当者だけでなく、記者も同じです。SNSやリアルでの関係構築を怠らないことが大切です。馴れ合いにならず、読者に有益な情報を発信するためにきちんと意見を言い合える、正しい良い関係を作っていきたいですね。

藤井編集長、ありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :大西花絵
取材サポート:村上福之

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今回は、ITmedia マーケティング編集長の織茂洋介さんインタビューの後編をお伝えします。前回は、織茂さんが今日のポジションに至るまでのお話から広報担当者に対するメッセージをお話しいただきましたが、後編はその続きからスタートします。

その会社の広告が欲しいから記事を出すということは、全然考えない。



加藤 企業の広報さんに求める情報提供スタイルについては?

織茂 「とりあえずご挨拶」みたいなコミュニケーションはなくてもいいのかなと思います。そのためだけにわざわざお越しいただくのも申し訳ないですから。また、製品リリースとかイベントのご案内とか、何かニュースになりそうなトピックスをお持ちいただくこともよくあって、それはそれで勉強させていただいているんですが、せっかく会いに来ていただけるなら何か次のアクションにつながるご提案があるといいですよね。聞きっぱなしだとすぐ忘れてしまうということもあるし(笑)

加藤 提案というと、寄稿とか?

織茂 実際、広報の方との会話の中から「当社の誰それがこんなことを語れます」という形で企画が決まることもあります。マーケティングオートメーションやBI、CRM、アドテクなど、専門的な知見はベンダーの方が一番お持ちだったりしますからね。もちろん、編集記事として載せるわけですから、「自社の宣伝」的な要素は、相談の上でカットさせていただくこともありますが。

加藤 その方がいいですよね。読者も「なんだ宣伝か」というところを感じ取りやすくなっていますよね。

織茂 せっかく良いことを書いてもらっているのにステマを疑われたら媒体として嫌じゃないですか。企業の側からしても、痛くもない腹を探られるのは不本意だと思うのです。中には、広告を打つ予算がないから代わりにメディアで寄稿をしたいという思惑を持っている方もいると思うのですが、ITmedia マーケティングのロゴのついたページで編集記事として載せる以上は、読者目線で価値のあるものにしたい。

加藤 寄稿した企業からの広告を期待するということは。

織茂 全く考えていません。というか、そこはあえて考えないようにしています。広告出稿をご検討いただければそれはもちろんうれしいですが、話をまとめるのは営業部の仕事。私が勝手にしゃしゃり出ていいとは思っていません。企業の側からしても、自社の懐具合にしか興味のない編集者と話したくないでしょ。

プレスリリースは送っておいた方がいい。ただし...



加藤 情報収集の方法はどうしていますか?ネタはどこで見つけてこられるのでしょうか。

織茂 企業からの新製品情報などについていえば、ITmediaのプレスリリース専用メーリングリストにご案内いただく分だけでも、かなりの量になります。1か月放っておくと数十ギガバイトにはなるでしょうか。全部に目を通すのはとても無理なので、自分に関係のあるテーマをそこから検索して拾っています。他の編集者もそうしていると思うので、広報の方はとりあえずそこにプレスリリースを送っておくといいんじゃないでしょうか。ただし、メールボックスの容量を食いつぶされるので重たい添付ファイルは避けてほしいですが(笑)。

加藤 ベンチマークしている他媒体とかあるんですか。

織茂 マーケティング系のWeb媒体は、有料のものも含めてだいたい見ています。しっかり読んで勉強させていただいていますよ(笑)。
それから、クローズドな情報を得る上では、業界有識者との個人的なリレーションも重要ですね。加藤さん含めメッセンジャーで話しかけてこられる方もいますけど。そういったつながりから情報をいただくこともあります。

加藤 申し訳ありません(笑)。

織茂 それと、業界関係のSNSアカウントは割とフォローしています。誰々がどこに移籍したとか新しい役職に就任したとか、Facebookが一次情報みたいなところがあるので。
書籍編集者時代はソーシャルメディアの黎明期で、FacebookやTwitterの魅力を広めるための本をずいぶん作っていましたが、今ではそこが情報源になっているというのは、感慨深いものがありますね。

自分と媒体の存在意義をどう考える?



加藤 織茂さんとITmedia マーケティングの強みって何でしょう。

織茂 直球来た(笑)。そうですね、何かな。まず、専門性で言ったら、恐らく読者の皆さんにかないません。自分で予算を持って施策を回しているわけでもなければ、プロダクトを作っているでもない。ただ取材して記事を書いているだけじゃないかと言われれば、だいたいその通りですから。
ではどこが強みかといえば、自分自身のこととしてはまず、前職の頃も含めこの領域を結構長く、少なくとも「デジタルマーケティング」という概念が浸透する以前から眺めているというのはありますかね。企業の出自や人事消息とか、エピソードの背景のストーリーを読み解くのに役に立っているような気もします。あくまでも何となくですが(笑)
もう一つは、あちらこちらに顔を出していること。ITmediaという20年やっている媒体の看板のおかげで、さまざまな企業にお邪魔させていただいています。会社でじっとしているのが嫌いだという性分もあって、取材に行くのは大好きなんです。ベンダーにも代理店にも事業会社にも行く。あちこちに出掛けてさまざまな人の話を聞く中で「A社とB社は言うことが似てきたな」とか「売る側が強みだと思っていることを買う側は全く評価していなくないか?」とか、さまざまな気付きがある。

加藤 同じテーマに関心を持つ人が集まるという部分では、オウンドメディアで大きなものもありますが。

織茂 今言ったように、我々が独立したメディア企業であるということには、一定の価値があると思っています。オウンドメディアは競合企業の取材にはなかなか行けませんよね。われわれはその点、ステークホルダーに対して中立公平で客観的な立場で記事が書ける。

「media」とはもともと「medium」の複数系で「中間にあるもの」という意味だと聞いています。売り手と買い手、専門家と非専門家といった、距離のあるものの間を我々が行ったり来たりする中で、新しい発見があったり、そこから生まれる価値があると信じています。

我々が出す記事は常に完全無欠ではないかもしれません。でも、それはそれで「こう見えるのか」「ここが伝わっていないのか」という、ある種の写し鏡にはなるわけで、もしご意見があればぜひ我々に伝えていただきたいし、対話させていただいて、より良い記事を出せるようなメディアにアップデートしたい。

加藤 必ずしも専門分野に詳しければいいという話ではないと。

織茂 念のために言うと、それをエクスキューズにして不勉強のままテキトーなことを書いていいと思っているわけではありませんよ。ただ、非専門家の視点は失ってはいけないものだとも思っています。例えば行動パターンに合わせて広告を出し分けるアドテクの話は、獲得コストを抑えてマーケティングの効率性を高めるという点で、広告主にとって、とても魅力的なものといえるでしょう。でも、エンドユーザーの目線からすると、自分の行動が相手に筒抜けになっているようで気持ち悪く感じるかもしれませんよね。そのように素朴に疑問に感じたことがあれば、我々はフラットな立場で忖度なしに聞きます。

ITmedia_織茂氏3.jpg左:織茂 洋介 氏 右:今回カメラマンを勤めてくださった 村上 福之氏(株式会社クレイジーワークス)

カスタマーサクセスに注目



加藤 ITmedia マーケティングでは現在どんなテーマを扱っているのでしょうか。そしてどのあたりがデジタルマーケティングのトレンドなのでしょうか。

織茂 読者が関心あるところでいえば、1つはB2Bのデマンドジェンの領域ですね。ITmediaの中のマーケティング媒体なので、読者の中には元々IT企業の人が多いですし。ただ、マーケティングという言葉がカバーする範囲はもちろん、もっとずっと広いですから、実際には広告、ブランド、CRMなども、けっこうガッツリ扱っています。

加藤 守備範囲が広がっている。

織茂 マーケティングの課題も広がってきたということが背景にあります。製品主導から顧客主導、価値主導のマーケティングが求められるようになる中で、マーケターが自分の閉じた役割に集中していい時代ではなくなりつつあります。
認知から興味・関心、検討、購買という全体の流れを意識して組織が一丸とならなければ、顧客の成功に貢献できない。顧客が成功できなければ自社も当然成功できない。マーケティングに全体最適が求められる中で、マーケティングについて扱う媒体の関心も必然的に広がっていく――そんな流れがあるのかなと。

加藤 なるほど。

織茂 顧客の成功、すなわち「カスタマーサクセス」は最近どこに取材に行っても聞くキーワードですね。

加藤 確かに!よく聞きますね。

織茂 成約することは売る側にはゴールですが顧客にとってはスタート。売りっ放しで置き去りとなってしまっては、今のサブスクリプションの時代では一回で切られてしまう。成功させ続けないと二度目の購買(継続)はないよと、だんだんそうなってきている。
つまりマーケターはマーケティングの先のCRM、カスタマーサクセスという所にまで興味を持つ必要が出てきて、それぞれの部署が連携しなければならなくなってきている。気が付くとそういった記事の本数も増えてきていますよね。

加藤 昔でいうとカスタマーリテンションとか、そういう話ですよね。

織茂 佐藤尚之さんの「ファンベース」とか、アジャイルメディア・ネットワークの「アンバサダー・マーケティング」といった考え方にも通じると思うのですが、顧客との関係性は新しいデマンドを生むことにもつながりますよね。新規顧客を増やしたかったら既存顧客に徹底的にいい体験をしてもらう。他の人に薦めたくなるくらいに。B2CでもB2Bでもそういうところはあるんじゃないかと思いますね。

加藤 自分の仕事でもお客さんがいい思いをしてくれると、そのお客さんがまた次のお客さんを連れてきてくれたりしますし。弊社も仕事で絡んでいるのですが、クアルトリクスというベンダーはアンケートをWebで簡単にとって、その回答をすぐに見られるようにして、CXの改善に役立てるということをやっていて。その辺ともつながってくるのかなと聞いていて思いました。

織茂 本来、デジタルマーケティングって、とても健全な世界だと思うんです。それは、成果がガラス張りだから。打った施策の結果が全てわかり、嘘がつけない世界。そういうところが好きなんですよね。「お客さまの成功のために」って、いかにも綺麗事だけど、それが実現できなければ自社も成功できないなら、綺麗事を押し通すしかない。
「マーケティング」という言葉にどこか軽薄なイメージを抱いている人は少なくないと思います。調子のいいことを言って人を騙してろくでもないものを売りつけて自社だけ儲けるというような。カスタマーサクセスを中心に据えたデジタルの世界では、もはやそういうインチキ商売は成り立たなくなってきていると思います。顧客と正直に対峙して、皆が幸せになる世界。そこに近づこうとするマーケターに貢献できるような記事を一本でも多く出していきたいなと。

加藤 何だかいい話が聞けましたね。


聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志
写真 :村上福之

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今回は、ITmedia マーケティング編集長の織茂洋介さんにデジタルマーケティング業界のトレンドや媒体概要などについてお話を伺いました。ざっくばらんに思うところをお話しいただいたインタビュー、今回は前編です。

雑誌編集者からWebメディアへ



加藤 織茂さんがインターネットのデジタルマーケティングのメディアで活躍されるようになったきっかけは?

織茂 そもそもメディアの世界に入ったところからお話してもいいですか。ずいぶん長くなりますけど(笑)。

加藤 どうぞ。

織茂 雑誌の編集者になりたくて、大学卒業後にフジテレビ子会社の出版社である扶桑社に入社したのですが、最初は広告を扱う営業推進部に配属されて広告進行の仕事をしていました。

担当していたのは主婦向け雑誌のESSEです。その頃は75万部くらい売れていて、広告も収容しきれないほど多く入っていました。雑誌の景気が良かった時代でしたね。

加藤 それから週刊SPA!へ移られて。

織茂 そこで特集ページから芸能人インタビュー、サブカル連載まで、さまざまな企画に関わらせてもらったわけですけど、その中で「デジタルハーレム」というデジタルガジェットやビデオゲームについて扱う連載を先輩と2人で担当していました。「デジタル」といってもWindows 95が出て間もないくらいの時期で、インターネットはダイヤルアップでしたが(笑)。会社がPCを支給してくれることもなく、自腹で買った(レノボではなく)IBMのThinkPad 535は40万円くらいしたはずです。まだ茫漠としてはいたけれど、「インターネットが切り開く未来」的なものにはすごく関心がありましたね。

加藤 SPA!にはどのくらいいらっしゃったんですか。

織茂 3年くらいでしょうか。あるとき編集でない部署に異動の話が出ました。当時あった女性誌のサブ媒体的に立ち上がっていた会員制Webサイトの運営に携わることになったのです。インターネットに未来を感じていたのだから不満はないだろうと思われるかもしれませんが、当時の自分としては、もう少し雑誌の仕事をやりたいという気持ちがありました。そこで求人情報を探すとソフトバンク子会社のソフトバンク パブリッシング(現在のSBクリエイティブ)で新雑誌創刊に伴う募集があったので、転職しました。インターネットのことを扱う雑誌の創刊ということで、「インターネットは好きだけどやりたい仕事は紙媒体の編集」という(ちょっと矛盾した?)自分の希望にピッタリかなと。

加藤 どんな雑誌を手掛けられていたのでしょうか。

織茂 Yahoo! Internet Guideという、当時すごく売れていた雑誌がありまして、その兄弟誌のYahoo!プレスという雑誌でした。しばらくしてソフトバンクがブロードバンド事業に参入したことに伴いYahoo! BBマガジンとしてリニューアルして、当時徐々に出始めていた動画コンテンツの紹介などをやっていましたね。NetflixもYouTubeもない時代にチャレンジングというか何というか。

加藤 書籍の編集もされていたんですよね。

織茂 はい。その後、インターネット革命の進展に従って、徐々にこの手の雑誌は役目を終えて消えていきました。同じ会社で書籍編集に転じてからはビジネス書などを作っていたのですが、やはりインターネットをテーマにした本を出したいと思っていて、ネット業界の有名人に書いていただきました。『次世代マーケティングプラットフォーム』『次世代コミュニケーションプランニング』などの「次世代」ものを何冊か出して、徐々に、今扱っているデジタルマーケティングの世界に近づいてきた感じですね。

加藤 先見の明があったということですか?その時デジタルマーケティングがブレイクしかけていた?

織茂 ちょうどネットがメディアとして確立してきて、広告の予算もついてきたところだったのでしょうね。ネット広告の出し方自体もベタ貼りの純広告から、メディアの種類ではなくて人にターゲティングして広告が出せるような、テクノロジーがマーケティングを変える予兆が見えてきたような時代でした。「個と繋がれる」「エンゲージメントを大事にしていこう」「コミュニケーションの作法が変わります」とか、担当していた本に書いてあったのは今となっては当たり前のことでもあるのですが、まだスマホ登場以前のことだったりしますので。

加藤 その後、2014年にアイティメディアに。

織茂 TechTargetジャパンに配属されて、エンタープライズITの世界に触れるようになりました。1年近くたったころ、前任の方の退職に伴ってITmedia マーケティングを預かるようになりました。前職で著者としてお付き合いしていた方が活躍する業界が取材対象となったという訳です。

全方位の力を借りてより良い媒体に



加藤 メディアを運営するに当たってどのような工夫をされていますか?

織茂 現状一人しかいない編集部なので、外部のライターの力を借りています。フリーランスの方以外に、ベンダーや代理店あるいは事業会社のマーケターの方に寄稿をお願いすることもあります。ポジショントークというか自社ビジネスの宣伝にならないようにご配慮いただきつつも、その領域の専門家として知見を披露していただくことは読者のためになることですので。さまざまな方にご参加いただきつつ、マーケティング業務に関わる方に「そこが知りたかった」と言っていただけるような記事をできるだけたくさん出していきたいと心掛けています。

加藤 マーケットリサーチを紹介する「調査のチカラ」(http://chosa.itmedia.co.jp/)も運営されているとか。他の媒体にはないので面白いなと。

織茂 調査のチカラには10万件以上のデータが蓄積されていますからね。地味ながらなかなかボリュームがあって、資料作成から朝礼のネタ探しまで、わりと幅広くお使いいただいているようです。ここから毎日マーケター向けのネタを拾ってITmedia マーケティングで紹介するということもやっています。

ITmedia_織茂氏2_2.jpg左:織茂 洋介 氏 右:加藤 恭子(ビーコミ)

広報さんにはスマートなアプローチを期待しています



加藤 広報の方が持ち込まれる時の作法とかルールとか、どうやったら話が早く進むとかこんな方法で持ってきてもらいたいとかありますか?

織茂 特にこうじゃなきゃダメというのはないと思うし、企画のご提案に関しては、基本的にはありがたくお話を伺います。記事になるかならないかは、読者のニーズがありそうか、きちんと実現できそうかというところに尽きますが。連載の場合だと、趣旨を固めた上で各回の仮タイトルを出していただいてから始めることが多いですかね。確認するのは私だけなので立派な企画書は必要ないのですが、どう進めるかのシミュレーションのために。そういったことを何回かメールでやりとりをした上で、実際に執筆をご担当される方を交えて対面でお話をさせていただくというパターンが多いですね。

加藤 広報のアプローチがうまいと思うケースはありますか?

織茂 それはありますね。そもそもの話としては、先ほど述べたように持ってきていただいた話が面白そうか、読者に有益かというところだけが重要なのですが、こちらが最初ピンとこなかった話でも、上手な広報さんだと、いつの間にか「どうすれば面白くできるかなあ」とこちらが考えさせられている(笑)。

加藤 そういうのはコミュ力が高いってことなんですよね。失敗する広報さんの場合、しつこく電話をかけてきて、ずれているネタを話して、コミュニケーションが図れない。

織茂 ITmedia マーケティングに普段どんな記事が載ってるか見ていないでしょうっていうのがバレバレなお問い合わせもときどきはあって、ちょっと残念な気持ちになりますね。そういうお問い合わせに限って、業務の集中しがちな時間帯に、しかも代表電話経由で入ってくることが多い。私だけならまだしも取りつぐ人の時間も潰すことになるし、スマートではないですよね。もちろん、わざわざ媒体を指名してお声がけくださるのは光栄なことだし、ありがたいと思っています。なので、こちらの都合を考えてほしいなどと偉そうなことを言うつもりは全くないのですが、よりふさわしい媒体を選んでいただきたいし、せっかくお話するならゆっくり聞けるタイミングで聞きたいと思います。

後編につづく

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志
写真 :村上福之

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日本では、かつての成功体験から長らく技術力や品質ばかりが重視されてきましたが、それだけではものが売れないようになり、マーケティングの重要性がようやく理解されてきました。そういった時代の流れの中で、マーケター向け専門メディアの草分け的存在として情報を発信し続けているMarkeZine(マーケジン)https://markezine.jp/ の編集長に就任された安成蓉子さんに、マーケティング視点でのメディアの本音、媒体の位置付けなどについてお話を伺いました。

編集長としてコンテンツ制作だけでなく、媒体のブランド強化にも注力



安成さんのこれまでの活動について教えてください。

安成 私は以前、専門商社で3年ほど営業を担当していましたが、元々編集者になりたかったこともあり、2012年4月に現在の翔泳社に入社しました。入社してからは一貫してMarkeZineの編集に携わっています。2015年4月から副編集長を務め、2019年4月に編集長に就任しました。仕事は編集業務だけでなく、イベントの企画からマネタイズまで、MarkeZine全体を統括している形です。編集長としてコンテンツの制作も担っていますが、制作統括だけでなく、ブランドマネージャーのような役割で媒体のブランド強化に注力しています。

MarkeZineはどのようなメディア活動を展開されているのでしょうか。

安成 MarkeZineは、マーケティング専門メディアで、掲載内容はB2CからB2Bまで幅広い領域をカバーしています。ただ、企画の根底には「データやテクノロジーの活用」という視点があります。「マーケティングに困ったらMarkeZineを見ればいい」と思ってもらえるような媒体づくりを心掛けています。また「マーケティングを経営ごとに」というミッションも掲げており、プレーヤー向けの情報から、事業をドライブするマーケティングの重要性を経営層へ伝えるコンテンツまで、幅広く発信しています。

メディアの立ち上げは2006年5月で、マーケティング専門のWebメディアとしては最も歴史があります。昨今のマーケティング領域への関心の高まりに伴い、コンテンツ領域や読者層の広がりを感じています。いい意味で活気がありますね。
そういった中でMarkeZineは、Webメディアの運営のほかに、イベント、定期誌、有料セミナー、書籍および電子書籍のシリーズも手掛けており、様々なカタチで読者のみなさまのニーズに応えられるようにサービスを展開しています。Webだけではどうしてもユーザーニーズに応えきれません。その分、イベントに来ていただければ市場動向が肌感覚でわかるでしょうし、セミナーに参加して対面の座学で学んでいただくことで、理解も深まります。

活況を呈する業界で必要な情報を適切に届けるために



確かにマーケティングやPRの重要性に対する理解度は高まっている印象ですね。

安成 業界が活況を呈するのと合わせ、マーケティング系のメディアも増えています。その状況で、本当に必要な情報を探すのは大変なことですよね。そこで私たちは、「MarkeZineには自分に適切な情報がそろっている」と思ってもらえるようなメディアを目指しています。必要な人に情報を適切な形で伝えたい。
例えば、Googleアナリティクス(GA)の使い方などがそうですけど、使い方自体はネットで簡単に調べられますが、読者の方一人ひとりの課題やフェーズによって、適切な情報の提供方法は異なります。そこでWebを入口として、セミナーや書籍など、様々なアプローチを通じて、それぞれの課題に応えられるようにしたいと考えています。

編集方針や編集作業の進め方について教えてください。

安成 私を含めて、MarkeZine編集部は8名で活動しています。自分が入社した当初は4名の組織でしたが、この7年で倍の人数になり、翔泳社の中で最も大きい編集部となりました。
若手を中心に、20代から40代まで幅広く在籍しています。担当分野は細かくは決めておらず、メンバーの個性が立っていることもあり、結果的にそれぞれの興味関心に基づいた様々な企画が出てきます。8人それぞれがイベントや定期誌、電子書籍と色々なアウトプットを出しています。媒体の方針として、「データを活用したマーケティング」という軸があるのですが、その軸さえ外さなければ良いというスタンスです。

プレスリリースは長期的な視点で有効に



広報担当者へメッセージはありますか?

安成 毎日たくさんのプレスリリースを送っていただくのですが、リリースはMessengerなどのインスタントメッセージでなくメールでもらえたほうがありがたいですね。すぐに編集部内でも共有できますし、後でキーワードを入れて検索することができるので、便利なのです。
その際によくあることなのですが、「(プレスリリースを)送ったのですが、届いていますか」と言う確認の電話は必要ありません。もし連絡するのであれば、到着確認ではなくて、プラスしたコメントもあると良いのではないでしょうか。「こういったプレスリリース出しました」だけでなく、例えば私たちに対してならば、「マーケティングの領域とはこんな切り口から関りがある」など、そこから一歩踏み込んだ説明をしていただけるとありがたいです。

そもそも企業が出すプレスリリースはどの程度記事になるものでしょうか。送っても反応がなくてがっかりしたと言う声も聞きます。

安成 MarkeZineではWebサイト上にプレスリリースの送り先を公開していますし、送っていただいたリリースはしっかりと見ています(https://markezine.jp/help/)。現在は簡易なニュースは1日10本程度アップしています。またより具体的な取材・寄稿企画などは、こちらのページから募集をうけています。https://markezine.jp/offering/

プレスリリースを出す意味は大きいと思います。その時点では掲載見送りになったとしても、将来の企画のタネになることもあります。実際に市場動向を見る上でどういったニュースがあるかを調べたりする際に、参考にしています。
また、ログとしても重要です。プレスリリースを見れば、その企業が何に注力しているかがわかります。製品やサービスを採用した顧客の成果も見えますし、長期的に効果を発揮するものでしょう。出す会社と出さない会社で、大きく分かれる気がしますね。編集者は企画を立てる際に、意外としっかりプレスリリースを見ています。

そのほかに情報収集はどのようにされていますか?

安成 SNSでつながってる業界の方々が発信している情報から、「この話題について、皆が共有しているな」などと分析しています。
もちろん、直接情報を取りに行くことも多いです。現場のマーケターの方々をはじめ、業界の有識者の方とお話をすることも多いです。取材先や著者のみなさんも、私たちにアイデアを提供してくれる貴重なつながりです。
また、マーケティングの世界は海外の方が進んでいるので、機会があれば海外カンファレンスの取材にも積極的に参加しています。

企画はどのように決めているのでしょうか?

安成 編集部員が企画をあげて、編集会議で決めるという形です。 その際に大事にしているのは、「どういった視点で選んだか」「読者にどんな新しい視点を提供できるのか」「どんな読者の課題を解決するのか」「ロジックがしっかりとあるか」などの部分です。

実はこれまでPVを追い求めてこなかったのですが、数字自体は大きく伸びています。見ているけど重視していないというスタンスです。PVが伸びると、編集部員のモチベーションは上がりますけどね(笑)

MarkeZineは無料で読めますが、会員メディアという形をとっています。公開から3日後の記事を全文読むためには会員登録が必要になります。「会員登録してでも読みたい」と感じてもらえる強いコンテンツを作れるか。そういった意味合いで、会員登録数を重視しています。

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会見よりも企業イベントに注目、その理由は?



最近の取材活動について、どのような傾向がありますか?

安成 企業イベントの取材が増えてきましたね。PR担当の方から「イベントの取材どうですか」とお声がけいただくことも増えてきましたし、実際にそういった記事が読まれるという傾向にもあります。その背景には、コミュニティマーケティングがはやっているということがあるのかもしれませんね。
イベントの内容についてですが、例えば成功事例、お客さん同士のパネルディスカッションなどは記事にしやすいので、そういう企画がありましたらぜひ声をかけて欲しいです。
一方で、記者発表会にはあまり行かなくなってきています。極端な話、ニュースリリースが出るので、それを見ればニュースは書けるんですよね。行けば写真は撮れますが、(記者向けの)パッケージとして出来上がっているために、他メディアと横並びの記事になりがちということもあります。イベントの方が広報担当者以外の人とも直接話せて今後の記事につながるヒントも得られますし、座談会などでは本音の内容も聞け、MarkeZineならではのコンテンツを作ることができるので、良いと感じています。

そのような中、企業はどのようなアプローチで記者会見を行えば良いのでしょうか。

安成 ある会社で以前、「DMPとは何か」といったキーワードに関する記者勉強会を開催してくれたことがありました。新しいツールを発表するのであれば、単に製品発表ではなく、こういった形の会があれば嬉しいですね。次々と登場するテクノロジーやツールについて私たちも勉強しながらコンテンツ作成に向き合っているので、こういった機会はありがたいです。
そういった意味で、毎回新製品の発表会ではなくて勉強会や説明会を開催すると良いのではないでしょうか。それがすぐに記事にならなくても、その後の企画につながるきっかけになることもありますからね。

記者向けの啓蒙活動という意味合いも込めて会を催すと?

安成 もちろん自分で調べたり、勉強したりしていますけど、それとは別に記者も教えて欲しいと思っているんです。そういった意味で、人を集めるのであれば自社製品のアピールだけでなく、業界動向の説明もあるといいと思います。

そのような機会を提供してくれた企業に対して、信頼感を覚えますし、そのテーマで企画を立てる際などに相談することもあるのではないでしょうか。

今後伝えていきたいテーマは。

安成 2019年上期は、「BtoBマーケティング」「組織変革」「統合マーケティング」などいくつか注力テーマはありますが、「広報PR」もその一つです。広報PR領域もデータドリブンの波が起きていますし、マーケティング活動との連携は今後より重要になってくると考えています。

記事を出す際には、取材した相手だからこそできた部分と、その突出した部分あるいは成し遂げたことをどうやって行えたか、なぜ行えたかという部分を分析し、再現性を伴ったデータでしっかりと捉えて紹介していきたいですね。

広報PR担当者はコンテンツ作りのパートナー



改めて広報PR担当に伝えたいことをお話ください。

安成 広報やPRの担当者のみなさんは、メディアのコンテンツ作りのパートナーと思っています。広報さんからのアプローチのおかげで、カタチになったコンテンツもたくさんあります。
その一環として、MarkeZineでは取材・寄稿の企画を募集しています。サイト内メニュー「その他」の企画募集ページにテーマが記載されているので、応募していただけると嬉しいです。https://markezine.jp/offering/

安成編集長、ありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志